カテゴリー「よみもの」の記事

2007-04-17

無題

 ――どくん
 心臓が飛び出したのかと思った。
 突然耳元で、鼓動が響いた。と、同時に、引き裂くような激痛が全身に走った。
「う……あぁ………………!!」
  苦しい。
  あたしがあたしでなくなりそうだよ……!
 飛鳥は異変に身悶えた。
 もどかしいような、満たされないような、身を焼かれるような苦しみが、彼女を襲っていた。
「飛鳥? どうしたん、大丈夫?」
 友の異変に気付いた沙綾が、軽く声をかける。
「さあちゃん……苦しいよ……」
 ずるずると、薄暗い地面に伏す。
 沙綾も身をかがめ、飛鳥の背中をさする。
「気分悪い? おなか痛いと?」
 さすりながら、飛鳥の顔色をうかがうように首を傾げる。尋常ではない飛鳥の様子に、自然と沙綾の顔色も険しくなる。
 飛鳥は沙綾の声に、うつ向いた^まま首を横に振る。
「うぅ……っ!」
 両手で、飛鳥は自分の体を抱き締め、苦しみに顔を歪めた。
 ――どくん
 再び鼓動が響く。それと同時に、不意に襲った苦しみは消えた。
「――欲しい……」
「え? 何て?」
「血がほしい……!」
 不意に飛鳥は身を起こすと、ものすごい勢いで沙綾の首に手をかける。その瞬間、眸を見開き、おぞましい色を湛えた飛鳥の目と沙綾の目とが合った。
「……………あすか……?」
「………!」
 飛鳥は不意に強い嫌悪感に襲われた。
(今、自分は、何て言った? そして何をした……?)
 飛鳥は震える手を、おそるおそる首から離す。
 沙綾の顔には、困惑と、疑心と、恐怖の色が浮かんでいた。しかしそれは一瞬で消え、いつもの彼女の笑みへ変わった。
「――飛鳥、顔色悪いよ。……ちょっと、どこかの物陰で休もうよ」
 はっきりと見たはずなのに、怖い思いをしたはずなのに。
 何もなかったかのように、沙綾は飛鳥に笑いかけ、励まし、友の肩を支えて立ち上がろうとする。
 それがますます飛鳥の自己嫌悪の念を一層強めた。
 飛鳥は沙綾を拒んだ。
「――さあちゃん、逃げて……」
 うつむいて^、つぶやく。
 かすかに声が震えていた。
「なん言っとぉとよ。飛鳥を置いて逃げるわけにはいかないでしょ? さ、少し休もう、ね?」
「いいから早く逃げて!」
 沙綾の言葉が終らないうちに、飛鳥は必死に叫ぶ。その眸には涙が浮かんでいた。
「あたし、……あたし、今、さあちゃんを殺そうとした……ねぇ、早く逃げて……さあちゃんを殺したくなんかないの……おねがい…………!」
「あすか……」
 飛鳥は、自分自身が怖かった。
 大切な友人を殺すなんて、誰がそんなことをするだろう。しかし今、本気で沙綾を殺そうとした自分がいた。恨みなんかない。身体が彼女の血を、力を欲していた。
「……逃げて………」
 涙がこぼれた。
 沙綾は飛鳥に寄り添うように身をかがめると、おえつ^する飛鳥の背中を、優しく摩った。
「大丈夫。飛鳥ならきっと、大丈夫だよ」
 何が大丈夫なのか良くわからなかったけれども、自然とそんな言葉が出た。もしかするとそれは、沙綾自身に向けた言葉だったのかもしれない。そもそも沙綾にとって飛鳥は姉妹のような存在である。恐怖よりも、むしろ慈しみの方が先に立ったのであった。
「ねえ、飛鳥。一緒にもとの世界に帰ろう。――うちはね、飛鳥と一緒なら、何でも乗り越えられる気がするっちゃん。いつもそうだった。学校でも、日常でも。……それに、もし飛鳥が飛鳥でなくなっても、うちはずっと傍におるけんね。なにがあっても、きっと飛鳥の傍におるけん。……そこんとこ、忘れんでよ」
 泣きながら飛鳥は何度も何度もうなずいた。
 沙綾もなんだか泣けてきて、二人して一緒にわんわん泣いた。
 二人がやっと落ち着いた頃には、昼だというのにすっかりあたりは真っ暗になっていた。
「さ、行こう」
「うん」
 手をつないで立ち上がると、星明りを頼りに道を進む。目指すは村で有名な術遣のもとだ。沙綾と飛鳥が話し合った結果、飛鳥の苦しみを取り除くことのできるのはあの術遣しかいないだろうという結論が出たのだ。
 しばらく談笑しながら歩いていると、見覚えのある通りに差しかかる。本来なら緑の葉を茂らせているはずの、しかし今ではすっかり裸になってしまっている桜の木が植えられた、緩やかなカーブを描く川沿いの道。この道なりに行けば、目的地まであと少しだ。
「きれいな星だね、さあちゃん」
「地上はこんなにおかしなことになっちゃってるのに、星は変わらないんだね」
「ほんとにねぇ……」
 やれやれ、と二人は溜息をつく。と、
 ――どくん
「さあちゃん!」
「え?」
 沙綾が振り向く間もなく、彼女の首が飛んだ。
 飛鳥は一瞬の出来事に、訳が判らず目を見開く。両手で口元を押さえた。
 虚空を、円を描きながら、黒い影はくるくると、地面へ落ちる。
 どす、という地面にぶつかる鈍い音と同時に、飛鳥は強い衝撃と自己嫌悪と、様々な負の感情に襲われた。けれども涙は流れない。心臓の音が嫌にはっきりと、耳元で響いていた。
「さあ・ちゃん…………?」
 首から上を失った不自然な胴体が、静かに崩れた。
 血の匂い。
 飛鳥は水たまりのように地面に広がるそれを見て、沙綾の血液と共にその力をもすすりたい^という衝動に駆られたが、そんな欲求よりも更に強い自己嫌悪という念がそれを抑えた。
 呼吸が乱れる。
「さあちゃん、ねぇ、さあちゃん!」
 返事はない。
 飛鳥の体は、ぶるぶると震えていた。顔は真っ青だ。
(今、あたしは、なにをした………?)
「悪ふざけは止めてよね、さあちゃん……ねぇ、早く行こうよ、……」
(悪ふざけなんかじゃない。
 殺ったのはあたしだ。
 あたしがこの手で、沙綾を………!)
 犬の遠吠えが聞こえる。
 腹が立つほどに、町は静かで、穏やかだ。
「蓮月沙綾っ!」
 腹が立った。
 怒鳴ると関が切れたかのように、涙が溢れた。
「さあちゃん! さあちゃんっ!」
 足から力が抜けて、地面に座り込む。そして飛鳥は大声で泣いた。
「やだよ、さあちゃん! いやだぁぁぁぁ……っ!」
 真昼の暗闇に、悲痛な叫びが響く。
 狂ってしまった世界は、飛鳥の声を貪欲に呑み込む。漆黒の空に瞬く星星は、ただただそれを見下ろしている。
(あたしが沙綾を殺してしまった。
 大切な友を殺してしまった。
 あたしが、あたしが………っ!)
「じゃあ、取り引きをしようか」
 ――ざり。
 砂利を踏む音が空気を払う。
 飛鳥は顔を上げる。その顔は涙でぐしゃぐしゃだ。
 そよぐ風に乗って、甘いような、冷たいような、なんともいえない凜^とした香りが聞こえた。
「もし取り引きに応じてくれるのなら、その子を生き返らせてあげる」
 誰かが飛鳥へ近付いてくる。しかし涙で視界が曇って、飛鳥にはそれが誰なのかわからなかった。けれども聞き覚えのある、なぜだか心が落ち着く、声。
「取り引き?」
 しゃくりあげながらようやく問う。その問いに相手は「そうだよ」と答えた。
 その者の右手には、小鬼。
 小鬼は少年に角を掴^まれ、恐怖の顔色で必死に彼の手から逃れようともがいている。その手には、小さな体には不釣合いな、赤い液体の滴る大きな鎌が握られていた。少年がもう一方の手で空(くう)を掴^むと、小鬼の体は奇妙にねじれ、パチン、とはじけてしまった。血痕のついた鎌は、鈍い音を立てて地面に転がった。そして卯花の狩衣を纏った小柄な少年は、無造作に下ろした髪を風に遊ばせながら飛鳥のすぐ目の前までやってくると、飛鳥の目線に合わせてかがんだ。
 その顔には、どこか切なげな、微笑。
「下等な小鬼の仕業だよ。こいつらは人を食べることで力を得ようとする汚い奴らなんだ。」
「――うそよ。」
「なんだ、やっぱり分かってたの。自分が殺してしまったんだって」
 飛鳥はぐっと涙を堪え、そうして掌で涙を拭った。
 ぼんやりとしていた視界は晴れ、目の前に、星明かりに照らされた少年の顔が浮かび上がった。
(あれ、この顔は……)
「木宮くん……?」
「やあ、飛鳥」
 にこり、と少年は笑った。
「久しぶりだね。こうやって話すの。あの日以来だね」
 微笑。
 しかし飛鳥はそれどころではなかった。突然の衝撃的な出来事に、どうしていいのか分からなかった。また、なぜ木宮は笑っていられるのか不思議で、そして腹が立った。
「木宮くん、あたしとても、苦しいの……あたし、さあちゃんを…………!」
 卯花の重ねの木宮は、ちらと、闇の向こう側を見る。黒黒とした地面に、元は沙綾だったものが横たわっていた。
「木宮くん……あたし……もう、いや……どうして」
 堪えていた涙が溢れそうになった時、不意に飛鳥は優しさに包まれた。
「…………」
 太一の長い髪が顔にかかる。幽かな、ふんわりと優しい香りが漂う。
 なんでこんなことになってしまったんだろう。飛鳥は思う。
 そして不意に、あの日の放課後のことを思い出す。
 ――俺、飛鳥のこと好きになった
 もうどのくらい昔のことになってしまったのか。けれど実のところは、ほとんど時間は経っていないのかも知れない。
「……もう、あえないかと思ってた」
 返事もせずに終わってしまうのだと、一生後悔し続けるのだと飛鳥は思っていたけれど。だけど……
「だけどまたこうして出あえたんだね」
 なんだかとても安心する、声。
 このまま何もかもを忘れられたらいいのに、と飛鳥は思った。――沙綾のことも……
「飛鳥は何も悪くないんだよ」
 耳元で囁いた。
 一瞬忘れかけていた恐怖と自己嫌悪が押し寄せる。
「うそ! あたしがさあちゃんを殺したんだよ!
 ――放して。あたし、木宮くんも殺してしまうかもしれないわよ……!」
 飛鳥が木宮を突き放そうとするまでもなく、木宮の腕から開放された。
「ごめん、飛鳥……俺がいけないんだ。こうなることは分かっていた……苦しい思いをさせてごめん……」
「どういうこと?」
 飛鳥はうつむいて^いた顔を上げると、聞き返した。その時木宮は、今まで見たこともないような、とても悲しそうな表情で、眉間に皺を寄せて、静かに目をつむっていた。
「木宮くん……?」
 飛鳥は首を傾げた。
 静かに木宮は眸を開く。
 そこには悲しみの色も、何もなかった。
「……ねぇ、飛鳥。飛鳥にとって蓮月さんは、大切な人?」
 不思議な問いだ。
 けれども飛鳥は木宮の目を見て、はっきりと答えた。
「そうだよ。さあちゃんは、あたしの一番の友達で、姉妹のようなものだもん」
 語尾がかすかに震えた。
 言葉にすると、目頭が熱くなって、涙がまたこぼれそうになる。けれどもそれをぐっと堪えた。
「そう……」
 かすかな笑みを口もとに浮かべて、木宮。
 緩やかなカーブを描く、枯れてしまった桜並木は、突然思い出したかのように一斉に真っ白な花をその枝いっぱいにつけた。その花びらが、飛鳥の髪にも、木宮の肩にも、そして沙綾であったものの上にも舞い降りた。
 鉄のような生臭い香りが、一瞬飛鳥の鼻をくすぐった。けれどもあの獣のような、おそろしく強い、血を欲する欲求は起こらなかった。
「――さぁ、飛鳥。取り引きをしようか」
 微笑。けれどもどこか、切ない微笑み。
「なにを、取り引きするっていうの?」
 慎重に聞き返す。
 木宮は顔色を変えずに答えた。
「君が……飛鳥が、俺らのもとへ来てくれるのなら」
 そう言って少年は目を細める。
 取り引きの条件に、飛鳥は一瞬目を丸くしたが、答えは元からひとつだった。
「その取り引き、乗った」
「そう言うと思ったよ」
 木宮はほっとしたように笑うと、懐から札と数珠を取り出し、ひとつ息をついた。

 桜の花がひらひらと、舞い落ちる。
 飛鳥に、木宮に、静かに降り注ぐ。
 流れる川は、白い涙を揺らめかせ、飲み込んだ。
 真夏だというのに、その様は悲しく美しい。
 不安定で、乱れきってしまったこの世界で、ただこの場所だけが、確かな時を刻んでいるようだった。

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2007-01-15

篝火

 死んだ。
 死んでしまった。
 指の間からすり抜けるように
 愛する者の命は死んでしまった。
「――壱与」
 漆黒を纏った少年は枕元に鎮座し、白い寝顔をただ映している。ふ、と彼は目線を手元へ移すと、彼女の手を取った。何かが大切そうに握られている。それをそっと解くと、琉璃のまがたまが落ちた。

 

続く

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2006-09-30

なんやこれ

 変なサイトば見つけたったい。
 アドレスば入力するだけで方言に変換してくれるっちサイトばい。
 …ごめん、これ以上無理;;
 博多弁だいぶ忘れた;;
 「なまり」(~ったい!、~やけん、~と、~っちゃんとか)はふっつーに出てくるっちゃけど、喧嘩の時にならんと博多弁はもうめったに出てこんとって。。。
 んで、それはさておき。
 へんなサイト見つけました。
 大阪弁とか博多弁とかに翻訳してくれるサイト。
 ちょっくら博多弁を試してみたけど、ちょっちおかしくね??
 ま、お愛嬌お愛嬌vV
 まじおかしいけん、読んでみそ☆(ちなみに作品は創作短編小説「時雨」より。)


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「ふたりがおる風景で10のお題」
 08.もう大丈夫


   時 雨


 今は少し、昔語りばしょうや。
 月のなか、さみしか夜やけん
 しとしとと、降りしきる時雨(しぐれ)に耳ば傾けながら
 今はただ、君と語り合いましょう。


「ずいぶん続くわね」
 重い夜の空ば見上げる壱与(いよ)の目は、憂鬱ちゅうよりどこか楽しげに輝いとぅ。腕ば伸ばすと、冷たい雨つぶばそん手のひらにすくったとよ。雨粒は壱与の手のひらの上に落ちては一つになり、小さな水たまりばつくったとよ。
「壱与、中へ入りんしゃい。風邪ばひくよ」
 白の単(ひとえ)姿の華羅(から)は、今はほとんどん遣戸(やりど)ば閉めた広廂(ひろびさし)から、簀子縁(すのこえん)に立つ彼女へ穏やかに声ばかけ、手招きしたとよ。華羅の結い上げた髪は、ばらばらと崩れかけとった。
「濡れてなか」
「ええ、大丈夫とよ。……ここは冷えるわ。さ、中に入って」
 御簾(みす)ば持ち上げっと、華羅ば先に中へ入れ、自らも中へ入ったとよ。広廂よりも明るく、そして暖やい。
 華羅は高麗端(こげんらいべり)の畳に敷かれた夜具の上に座り、壱与はそん傍らの円座(わろうだ)に腰ば落ち着けたとよ。
「気分はどう」
「うん、さっきよりもよかよ」
 やんわりと微笑み、壱与は華羅の額へ手ば当てたとよ。そん指先は、時雨のせいでひんやりと冷たい。
「まだ熱かわね……もうちびっと横になっとったほうがよかわ。それとも何か食べれそう」
「……少し、起きとったいんや。熱にうなされて、何だか眠るのが怖いんばい」
 いつもは強気な華羅は、弱弱しく言うと目ば伏せたとよ。
「華羅がそげん弱気だげな、珍しかわね……さ、横になって。あたきが側におるから、大丈夫」
 愛おしむごたる声。
 壱与は静かに目ば細めたとよ。
「……オレ、ガキみたいだな」
 苦笑しつつ横になるたい。
「病気になっと、誰でんそうなるもんとよ。心も弱ってしまうのね」
 ふたりは小さく笑い合ったとよ。華羅はふと格子の向こげんへ目ば向けたとよ。
「雨の音は、きれいだな……壱与は昔から雨が好いとうやったくさ。広廂に座って、ずっと空ば見上げとった。彩夜(あや)の生まれた晩も雨が降っていて、外が見たいちゅう君ば抱えて一緒に夜空ば仰いだのば覚えてる……あん日は雨だちゅうのに、美しか夜やったよ」
「ええ、きれいな夜やったわくさ。春雨が薔薇(そうび)に柔らかに降り注いで、若葉ば温かくゆらしとった……まるで精一杯生きんしゃい、と励ますかんごたるったとよ??彩夜も激励されとぅんげな、きっと強く優しか子になるなって感じて、ばりうれしかったとよわ」
 遠い日々の幸せが、ふたりの間に広がっては、再び静かに消えたとよ。
「雨だれは、いろいろな記憶ば思い出させると。よか思い出ばっかいやなかわ。悲しかこつもたくしゃん……??華羅が亡くなったとよ日も、冷たい雨が降っとった。あたきが天津國(あまつくに)へ初めて足ば踏み入れた時も、大雨が降っとったわね……ひどい雷やったわ」
 微笑の中にどこか悲しか色ば湛えた壱与の眸が、華羅の眼ば捉えたとよ。
「??オレたちが出逢ったとよ日は、桜の雨が降っとったくさ。壱与が桜の精んごたると思ったと……本当に、美しかったとよ……」
 最後はそん光景ば目の前に見とぅように、華羅はささやくようにうっとりとつぶやおった。
「ふふ……あん華羅の驚おったごたる顔が、桜の花びらの影にかくれたり、あらわれたりする様子が、まるで昨日のこつとように鮮明に覚えとぅわ。あん時も華羅は、あたきに“桜の精か”って訊おったとよ。覚えてる」
「あげん、覚えてるさ」
 燭台の油が、ジジっと鳴おった。
 燈りが揺れ、ふたりの影もそれに合わせてゆらゆらと揺らめおった。
「そろそろ、眠れそう」
 壱与の問いに、華羅は小さくうなずおった。
「だいぶ落ち着いてきたよ……ねぇ、抱き締めてよか」
 華羅は静かに尋ねっと、体ば起こしたとよ。
 壱与は答える代わりに、小さく微笑む。華羅も微笑み返すと、そっと壱与の肩ば抱き寄せたとよ。
 華羅の腕は熱のせいか弱弱しく、また、熱かったとよ。
 大切な人が、早く元気ばとり戻しときますばいように、と祈りば込めて、壱与も華羅の背中ば抱き締めたとよ。
 しばらく静寂と、軒ば打つ雨だれの音が、時ば流れたとよ。
「……ありがとう。もう、大丈夫」
 そっと腕ば解く。
 雨はまだ、暗い地面へ落ちてはさわさわと歌っとぅ。


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 建物の構造とか名称が間違ってるかもしれなかとよ。
 間違えば見つけた方は、是非教えてつかぁさい。

 ちなみに壱与と華羅は、キナ泉の国の人間やけん。
 説明が少なく、すみましぇんやった


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 はい、ここまでが「博多弁翻訳」したブツですね。
 …うち、博多っちゅうより福岡弁が強いけん、「~くさ」とかようわからんとよ。…てか、このお話は結構静かな物語のはずなんだけど…なんなんだ、この意味のわからないどこからか込み上げてくるおかしさは!
 しかもなんか一部明らかに変ですから!読み方。「黄泉」が「キナ泉」になっとった…うける(((プルプル)))
 この物語の原文はこっち

 そして、素敵な翻訳サイトさんはこちら☆
 ↓
新蝸牛

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2006-09-13

『硝子玉の向こう側』

  一、時空を越えること


 修一が目を覚ますと、彼の目の前に真っ青な空が広がっていた。
 青々しいにおいが嗅覚を刺激する。目線を少しそらすと、緑の草が、青い空に向かって手を伸ばしていた。
(何で俺、こんな所にいるんだ……?)
 ぼうっとした頭の片隅で考えてみたが、暗い空と赤いビー玉しか思い出せない。修一はしばらく、真っ青な空と見つめ合っていた。
「おなかでも痛いのですか?」
 不意に陰が差したかと思うと、どこかとぼけたような声が降ってきた。
「んぁ?」
 急に現実へ戻された修一はぞんざいに返すとめをこすった。
「なぁんだ、生きてたのか。……あまり見かけない顔ですねぇ。こんな所で寝てると殺されちゃいますよ」
「はぁ?」
 物騒なことをさらりと言い放つ声は、内容にそぐわず明るい。
 修一は体を起こすと、紺地の和服を纏った男が身をかがめて彼の足元で笑っていた。その男の後ろを、小川が流れていた。
「なんだよ、おまえ」
 にこにこしている男の頭のてっぺんから足先まで睨むように眺めると、修一は少し後ずさった。
 目の前の男は、修一にとって「不審」以外の何者でもなかった。
 髪は頭の高い所で一つに縛っていて月代を入れている。足には下駄を引っ掛けていた。口元には八重歯が覗いている。
「人に物を尋ねる時はまずは自分から名乗りなさいな」
 相変わらずにこにこしながら彼は言うと、さっと立ち上がった。その左腰には大小の刀を携えている。けれどその印象はこの男が妙に笑顔している為か、それとも瓢瓢とした物言いの為なのか、ふらふらしているような、まだ子供っぽさが漂っていて、どうにも頼りない風体であった。
「……そうですねぇ、私は通りすがりの浪人とでも言っておきましょうか」
「ローニン?」
「主のない侍です。で、変な少年、君は?」
 変、と言われ、修一は眉間に皺を寄せた。同時に侍と言う言葉に何か、この空間への違和感を覚えていた。
「俺は竹田修一。高校生だ」
「コーコーセイ? 変な役職ですねぇ。ホントに異人の子ですか?」
 浪人はからかうように笑うと、ふ、と土手上を見た。
「異人異人うるさいんだよ。おまえこそあらしい……」
 さっ、と浪人の手が伸び修一の言葉を遮る。
「しっ、静かに。あなたはかがんで草の間に身を潜めていなさい」
「は?」
「早くっ、奴らがやってきましたよ……あーあ、見つかっちゃた」
 その言葉と同時に修一は今度は土と仲良くなった。動くと痛みが走る。膝と腕にかすり傷を負っていた。しかし、痛いと感じる前に修一の目の前に信じられない光景が飛び込んできた。修一はその場に座り込んだまま、目を見開いていた。
「てめぇだなぁ、長吉を斬ったのは」
 数名の男たちが土手を駆け下りてくると、首領格であると思われる男が怒鳴った。
 どのものも服装はみすぼらしく、瞳には殺気をみなぎらせ、そしてぎらぎら光を放つ抜き身を手にしていた。
「長吉の仇だ、死ねぇぇぇぇっ」
 言うが早いかわっ、と男たちが浪人目がけて太刀を振るってくる。浪人は相変わらず笑顔をはりつけている。と、その時、浪人が刀を抜いたかと思うとあたりにぱっ、と赤が飛び散った。続いて男たちの叫びが上がる。修一は思わず口元を押さえた。
 すでに男たちはただの肉塊と化していた。
 修一の顔は真っ青になっている。
(ここはどこだ……夢なら覚めろ、夢なら……)
 浪人はさっと太刀を振るい懐紙で刀をなぞると、鞘に収めた。
「修一、終わりましたよ」
 その声に力なく顔を上げる。そこには先程と変わらない笑みがあった。
 修一は鳥肌が立った。同時に恐怖と怒りが込み上げて来る。
「……なんで」
 己でも情けない音がのどから漏れた。浪人は笑ったまま首をかしげた。
「なんで殺しなりなんかしたんだ。易々と……人の命はそんなに軽いもんかよっ」
 浪人の顔からす、と笑みが消えた。
「どうして。やらなければやられていたのに」
 鬼だ、修一は顔をこわばらせる。
 そして気付いた。いや、確信した。
 ここは“修一のいる世界じゃない”と。


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 <2006.09.13.Wed>
 <2006.09.22.Fri>
(C) Rinka OKI . 2006

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2006-06-29

『墓』

   墓


 野辺送りも終えた荒野に、男がただ一人、真新しい墳墓を光のない眼で眺めている。男の耳に届いてくるのは、物悲しげな風の音と、草のさやぐ声のみである。
 空からはすっかり陽も落ち、ちかちかと星が瞬いていた。
「なぜ死んだ」
 土の盛られただけの墓は、しんとそこに沈んでいる。
「おまき……なぜ俺より先に行ってしまった」
 男の言葉のはしばしに、おえつがにじみ出す。
 ずっ、と鼻を鳴らすと、男は地に手をついた。にぎられた草が くしゃりとうめきを上げる。
『あたしだって死にたくなかったさ。けれど死んでしまったんだ。仕方ない』
 くもった声が、くらい地面から男へとつたわる。
 びくり、と、男は体をこわばらせた。
「おまき……」
 おびえるような、愛しむようななんとも奇妙な声が夜に吸い込まれる。辺りはシン、と静まったまま男をとり囲んでいる。


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≪2006.06.29.Thu≫
(C)Rinka OKI . 2006.

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2006-03-30

華の親バカ記

「ふたりがいる風景で10のお題」タチフロソウ:沖りんか
 02.しらんぷり


   華 の 親 バ カ 記


 最近どうも、彩夜がそっけない。
 何故だろう。
 オレは何か言ったろうか。
 いや、そんなはずはない。
 では、何故だ。


「彩夜、お父さんと貝合わせしようか」
 簀子縁に座って絵巻物を広げている娘へ声をかけると、彼女は父の声など聞こえていないかのように見向きもしない。側へ寄ってもう一度声をかけてみると、今度は手早く絵巻物を片付けると、ツンとした態度でどこかへ行ってしまった。オレは気に障ることをしたのだろうか。小さい頃は父様(ててさま)と彩夜から駆け寄って来ては鞠つきだのお手玉だの人形遊びだの色々と一緒に遊んだものだ。それなのに近頃はかまってくれない……いや、かまってくれないのではなく、かまってやろうとしても逃げられてしまう。
 しかし、オレはめげずにその後も彩夜に声をかけてやることにした。
 そしてある日、彩夜が久々に口をきいた。
 それは初夏の風も心地よい、よく晴れた日の午後だった。
「彩夜、いっしょに囲碁でもやろうか」
 碁盤と碁石を持って隣へ腰を下ろすと、それと入れ替わるように彩夜が立ち上がった。
「彩夜」
 彩夜はオレの顔を見下ろすと、目を細めた。
「お父さん、うるさい」
 何も言い返せないでいるオレを置いて、彩夜はさっさと離れていってしまった。
 ――――オレのかわいい彩夜がっ
       ど、どうしてしまったんだ……っ


   *  *  *


「小さい頃の彩夜は、あんな子じゃなかったのに……もし悪い道へ走ってしまったらオレはどうすれば良いんだっ」
 壱与へ仔細を話すと、ますます不安になってしまった。頭を抱え込むと、そっと壱与が肩へ手をかけた。俺は頭を上げた。
「華羅ったら、本当親バカね」
 おほほ、と優雅に微笑みつつも、刃物のような言葉を壱与はよこした。
「親バカ……」
「華羅の気持ちも分かるけれど、彩夜ももう十四歳よ。一人でいろいろ考えたいのよ」
「しかし……」
「それにね、女の子っていうのは、この位になると父親の存在が煙たくなるものなのよ。ほっとけばいいの」
 そう言って壱与は笑う。オレは目の前が真っ暗になった。
「このまま一生彩夜に嫌われたままだったら、どうしよう」
「大丈夫よ。彩夜はわたしの子だもの。良い子に育つわ。それに、こういうのも今だけよ。その内彬良(あきら)も明希(あき)も大きくなるわ。良い勉強だと思えばいいじゃない」
 子育てって、なんて大変なのだろう。
 これから先のことを想像してしまい、頭が一瞬、ぼうっとする。
 朗らかに笑う壱与が、何だかそこらの男よりもたくましく見えてしまった。


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 華羅が親バカな話を書きたかっただけ。。。

≪2006.03.28.Tue ANA131便 41A席にて。夕≫
(c)Rinka OKI. 2006

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2006-02-10

「キヨシ、コノ夜。」第一夜

 キ ヨ シ 、 コ ノ 夜 。


   第一夜   逢


 その日は朝から鉛の雲が空を覆っていた。日中の最高気温は3度。日が沈んでからはぐっと冷え込む。肌を裂くような風は容赦ない。鞄を持つ指先はかじかんで痛い。靴下を二重に履いているはずの足先もすでに感覚がなくなっていた。
 白い息が紗耶歌(さやか)の頬を撫でる。
 大通りは会社帰りのサラリーマンや学生がひっきりなしに行き交っている。車も途切れることはない。しかし歩道沿いの街路樹はすっかり裸になってしまい、街はどこか物寂しい。
 紗耶歌は寒さから一刻も早く解放されるために、普段は通らない近道を行くことにした。しばらくにぎやかな大通りを真っ直ぐ行った後、小さな裏路地へ入っていった。
 一歩裏路地へ入ると、先ほどまでの喧騒はぱったりと止む。大通りでの明るすぎるほどの街灯も見当たらない。闇と静寂の支配する世界が広がっていた。紗耶歌は姿見えぬ不安と恐怖心に駆られたが、ぐっと押さえ込むとそれまでのものより更に早い歩調で帰路を急いだ。と、不意に紗耶歌は足を止める。ぼんやりとした洋燈(ランプ)の灯りが、枝のように分かれた路地の暗闇の向こうで揺れていた。そこはどうやらなにかの店らしい。飾り看板の影の輪郭を、洋燈の幽かな灯りがぼんやりと浮かび上がらせていた。紗耶歌は早々に闇から抜け出したいという思いと同時に、一軒だけ明かりの燈されたそこに何があるのかという探究心を抱えることになってしまった。一瞬考えた後、足先は脇道へと踏み出していた。
「ずっとお待ちしておりましたよ。ようこそ我が夜へ」
 洋燈の下には、真っ黒な外套を纏った老婦人がたたずんでいた。彼女は紗耶歌の姿を見るなりそう述べた。紗耶歌は眼を巡らせる。硝子越しに店内を見やると、そこは蝋燭がいくつも燈されており、軒先にぶらさがる看板にはカリグラフィーで『Silence of the Night(夜の静けさ)』と書かれていた。そしてこの店以外は濃すぎる夜に閉ざされているかのようで、辺りには人間の姿も、気配すらもない。
「さあ、どうぞお入りになって。ここは冷えます」
 老婦人は硝子戸に取り付けられた取っ手を引くと、紗耶歌に中へ入るように勧めた。紗耶歌は一瞬息を呑んだが、勧められるままに店へ入った。入るとまず、息苦しいほどに深い香の匂いが肺へ流れ込んできた。無数に燈された蝋燭の炎がゆらゆらと揺れ、香の匂いと相まって意識を朦朧とさせる。薄暗い棚にはいろいろな形の影が並んでいる――愉快な顔の傀儡子(くぐつ)、操り人形(マリオネット)、西洋人形(アンティーク・ドール)、黒猫のオヴジェ、髑髏(どくろ)の水晶(クリスタル)、無機質な試験管、梟(ふくろう)の剥製(はくせい)……。
「不気味でしょう」
 突然かけられた老婦人の言葉に、紗耶歌は肩をすくめた。
 老婦人は纏っていた外套を、いつの間にかとっていた。
「変わったものを集めていたら、こうなってしまったのです。元々は主人の趣味ですのよ」
 部屋の中心に置かれた洋卓(テーブル)に布巾を滑らせながら老婦人は穏やかな口調で言い、どこか困ったような笑顔を浮かべた。
「どうぞ、おかけになって。今紅茶を持ってまいりますわ」
「あ、いえ、そんな……」
 すぐに帰るつもりでいた紗耶歌は老婦人の親切を断るつもりが、中途半端な声だけが喉から漏れた。老婦人は奥の扉の向こうへ消えた。しばらくして老婦人はティーセットを持って戻ってきた。
「どうぞお掛けになって」
 ティーポットに茶葉を二人分入れ、熱湯を注ぎいれる。紗耶歌は暗い通りを背に椅子に掛けた。老婦人も向かいの席に腰を落ち着けた。
「紅茶はお好きかしら」
「ええ」
 紗耶歌の返事に老婦人は、良かったわと、やんわりと微笑んだ。
「近頃は急に冷え込みましたね。外は寒かったでしょう。紅茶に生姜を入れるととても温まりますのよ」
 そういいながら、老婦人は小さなおろし器で生姜のかけらをすりおろし、
「これは好みで入れてくださいね」
と言って洋卓の真ん中辺りに置いた。それから一緒に盆に載せて持ってきていたミルクや砂糖、ジャム、シナモンなどをひとつひとつ説明しながら並べ、葡萄の描かれたティーカップへ紅茶を注いだ。白い湯気と共に新鮮な紅茶の香りがあたりに漂った。
「どうぞ」
 出された紅茶を、紗耶歌は軽く礼を述べ受け取った。
 向かいの老婦人は紅茶にさっそく生姜を入れ、ミルクをたっぷり注いでいる。紗耶歌はメイプルシロップとミルクを入れた。
「あの、どうしてわたしがここへ来るとご存知だったのですか」
 紗耶歌の突然の問いに、老婦人は何のことだか分からないと言うように首をかしげた。
「『ずっとお待ちしておりました』ておっしゃりましたよね」
 老婦人はようやく合点がいったようで、にこりと笑った。
「なんとなく、そんな気がしましたの。今日は珍しいお客様が来るわ、と」
 今度は紗耶歌が首をかしげた。老婦人はその様子を見て苦笑した。
「わたくしには、昔からそんな勘がありましてね。主人はよく神様のお告げだと言っていましたわ」
 紗耶歌はそれを否定も、肯定もしなかった。
 紅茶を一口啜った。
「そうだわ、あなたに渡したいものがあるの」
 老婦人はふと思い出したように席を立つと、カウンターの引出しから木箱を取り出し、それを持って席へ戻ってきた。箱を開けると、一冊の本が入っていた。とても古い。老婦人はそっと箱から出すと紗耶歌へ渡した。
「これをあなたに渡すために、わたくしはあなたを待っていたの」
「これは」
 渡されたそれは上製本ではあったが、それほど厚さはない。あっても一センチほどである。
 紗耶歌は恐る恐る本の表紙を開いた。
 めきめき、と、本の背が鳴いた。
「戦前に書かれた作品で、元々はここへ寄贈されたものです」
 初めのページに、「聖しこの夜」と打たれていた。ぱらぱらとめくっていくと、それまで文字が詰まっていたページは途中から真っ白になった。一番後のページには本のタイトルと出版社、責任者などの情報が刻まれていたが、作者の名前はどこにもなかった。
「作者の名前がありませんが」
 老婦人は紅茶を一口啜り、うなずいた。
「ええ。なぜかこの作品だけ名前が記されていないのですよ。変な本でしょう」
 紗耶歌はもう一度表紙と、中表紙とを見直したが、やはりどこにもそれらしきものは見当たらなかった。
「他にも作品を?」
「そんなに多くはないのですけどね。短編集と童話をいくつか出されていますわ。わたくしは一度お会いしたことがありますが、誠実でいて大人しいけれどとても変わった方でした。この本も、その方がくだすったんですよ。けれど、それ以来その方はここへは来ませんでした」
 だいぶ遠い昔のことなのだろうか。老婦人は伏せ目がちにどこか遠い目をしていた。
「その方の名前はご存知なんですか」
「ええ。でも、お教えできません」
 老婦人はさみしそうに、静かに述べた。
 紗耶歌は本を閉じると、表紙に目を落とした。繊細な雰囲気の、どこか異国を思わせる雪の夜の景色が、藍地に金の線で描かれている。
「あら、雪だわ」
 不意に老婦人が目を輝かせた。紗耶歌も振り返り、硝子の向こうへ目をやった。ふわふわと、白い雪が静かに舞っていた。
「雪が降る時は、天使が下りてくる時なのですって」
「天使……」
 紗耶歌はただ、降りて来る雪を眺めた。


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 立風露想「キヨシ、コノ夜。(2004.12)」を改稿。

 (c)Rinka OKI . 2006
<2006.02.10.16:42>
<2006.02.11.02:37、02.11.18:02>

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2006-02-09

「キヨシ、コノ夜。」序(2006再編)

 キ ヨ シ 、 コ ノ 夜 。


   序


 さやか
 紗耶歌
 サヤカ


 愛しい紗耶歌。
 何故ぼくたちは出逢ってしまったのだろう


 夜空に煌(きら)めく千千(ちぢ)の星ほど人はいるのに
 この世界でぼくたちたったふたりは出逢ってしまった。


 ――どうして


 これが運命だと言うのなら神は残酷だ。
 残酷すぎるよ


 残酷な神
 愛しい君。


 共に歩こう 紗耶歌。
 漆黒の世界を、ぼくたちふたりで、


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 立風露想「キヨシ、コノ夜。(2004.12)」を改稿。

 (c)Rinka OKI . 2006

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2006-02-07

「キヨシ、コノ夜。」

 まだどうなるか分からない小説ネタ。
 高2のころ書いた小説を無性に書き直したくなって、もっと話を深めようと思い立ったので。


・ 天野 北斗  21歳(?) 書生。

  18:病
  21:夭折(1934)
     2004:創造主の達しで人間界に降りる。


 相変わらず設定から暗いなぁ…


Rinka OKI . 2006

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2006-02-06

title

 挑戦したtitle〈お題〉の目次です。
 短編小説おおめにこれからどんどんがんばります。


ふたりがいる風景で10のお題/タチフウロソウ・沖リンカ

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「ふたりがいる風景で10のお題」タチフロソウ:沖りんか
 04.いつもの通学路


   犬


 沙綾は、桜公園の噴水前で足を止めた。
 黒いつぶらな眸と、目が合ってしまった、のだ。
 みかんのダンボールに入れられ、さみしそうにうずくまっている。
「どしたの、さあちゃん」
 少し先を行く飛鳥も足を止め、振り返る。
「どないしよう、飛鳥」
 そう言って指さした先には、幼い顔をした柴犬の姿があった。二人の視線に体を起こした仔犬は、ダンボールの中でちょこんと行儀よくお座りをした。
「ちょーかわいくない? めっちゃ『拾って』って言っとぉよ」
「さあちゃん、これは運命だよ。さ、帰ろう」
 あわれな仔犬に心惑わされている親友の手を引き、飛鳥は何事もなかったかのようにその場を離れる。
 仔犬の真っ直ぐな眼が、二人をどこまでも追いかけてくる。
「ストップ、飛鳥っ!」
 ぴたっと足を止めた沙綾に、飛鳥も足を止める。
「飛鳥冷たーい! あのこがかわいそうやなかと? ずっっとうちらんこと見とぉとよ!」
「さあちゃんダメだって! かわいそうかわいそうって言ったって、うちもさあちゃん家も飼えないでしょ? あたしん家には猫がいるし、さあちゃん家には勘太郎がすでにいるじゃん。なのにあのこに中途半端に愛情注いでも、結局はあのこがかわいそうでしょ」
 そりゃそうだ。
 分かっていたことを真正面から返されて、沙綾は何も言えなくなった。
「でも、でも……」
 その時、パタパタと幼い駆け足と共に「コロー、コロー!」という呼び声が近付いてきた。
 仔犬はその声に耳をピン、と立て目を丸くしている。
「コロ! お母さん、コロいたよ!」
 ピンクのワンピースの女の子が仔犬を抱き上げる。その犬はうれしそうにしっぽを振り、小さな舌で女の子の顔をせわしなくなめている。
「コロ見つかってよかったわね。さ、お家に帰りましょう」
 しばらくして、親子は仔犬を連れ、去って行った。
 飛鳥と沙綾はずっとその様子を見て突っ立っていた。
「あのこ、お家から飛び出しちゃって、帰れなくなってたんだね」
 飛鳥。
「でもよかった! 捨てられたんやなかったっちゃね」
 沙綾は笑顔でそう言ったが、どこかさみしそうだ。
「さて、あたしらも帰ろうよ。お腹すいちゃった」
 空ではカラスも、ねぐらへと帰っていくようだった。


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 間違って「Esc」キー押しちゃって一度全部消えました。
 みなさん、こういう予期せぬトラブルにはご注意ください。

 (c)Rinka OKI. 2006

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2006-02-02

夕立

「ふたりがいる風景で10のお題」(立風露想:沖鈴花)
 06.雨宿り


   夕 立


 夕暮れになると、突然降り出した。
 雨のにおいが、温められた地面から立ち込める。
 往来を急ぐ人々が行き交う。
 糸咲(しさき)は料紙屋の軒下に入った。彼女の他にも雨宿り客が数名ほどいたが、十分に雨をしのげた。
(……にわか雨か。傘を持って出るべきだった)
 着物は、すぐ雨宿りできたためそれほど濡れもせずに済んだが、雨が降っていては動こうにも動けない。
(でも通り雨だし、すぐに止むだろう)
 憂鬱になりかけた心にそう言い聞かせると、気長に待つ事にした。
 糸咲は腕に抱いていた巾着をそっと解くと、ふ、と目尻に笑みを浮かべる。中から顔をのぞかせたのは、洗朱の漆に月が描かれた櫛だった。今日買ったもので、店で一目惚れしたのである。それまであまり櫛やらかんざしやら女性らしいものは買ったこともなかったためか、雨なのにとてもわくわくして、きらきらした気分である。糸咲は土砂降りの雨音を聞きながら、しばらく櫛を眺めていた。そして、我ながら乙女だと、そんなことをぼんやりと考えていた。軒からぽたぽたとせわしなくしずくが落ち、地面ではねている。蒸し暑さは、急な雨のおかげで幾分か解消されていた。
 ふと、糸咲は顔を上げる。
 さっきよりも雨足は強くなっていた。両耳をザザーという瀧の音にも似た轟音が塞ぐ。
 霞んだ風景の向こうに、人影が見えた。こちらに走っているようで、人影は大きくなり、輪郭は徐々にはっきりして来た。また、走るたびに溜まった雨水がぴしゃぴしゃはねる。しかし、その人影は構うことなく走っている。
 糸咲は何気なくその様子を見ていたが、突然驚いたように目を開くと、顔を強張らせた。口は真一文字に結ばれている。
「あれ、糸咲」
 例の人影は軒下に入るなり、彼女の姿を見つけ、少しきょとんとした顔でそう言った。しかし、糸咲は黙っている。
「ひどい雨だね。まいっちゃうよ」
「……裕次(ゆうじ)……何で」
 彼の纏う紺の稽古着は、水をたっぷり吸って重そうに体に張り付き、引っかかっている。袴の裾や袖から忙しなく滴が垂れていた。いつもはふんわりときれいに波打つ彼の髪もぐっしょりに濡れ、今では頬や首筋に張り付き、ぐったりしている。
「出稽古に行ってたんだよ。隣町の方に。でもこの雨のせいで竹刀も防具もぐしょぐしょだよ。後片付けが大変だなぁ……」
 そう言うと、彼は苦笑した。左頬に笑窪ができる。
「ところで糸咲はどうしてここへ?」
「は?」
(やっぱ苦手だ、こいつ……)
 なぜいつもへらへら笑っているのか、糸咲は理解できなかった。裕次は糸咲が険しい顔をしているのを見て、やんわりとつけ加えた。
「糸咲がおめかしして出かける姿なんて、久々に見たなと思って……訊いちゃまずかった?」
 少し気まずそうに苦笑する裕次へ、糸咲は呆れたようにため息ついた。
「誤解するな。今日は神楽と買い物へ来たんだ。女二人で出歩くのに、男の恰好(なり)ではまずいだろう。それに私だっていつも好きで男の服を着ているのではないし」
 糸咲の言葉に、裕次は「ああ、よかった。そうだったんだ」とほっと息をついた。
「なぜそんなに安堵する」
「ん? いや、別に……糸咲が男の人と出かけたのかと思って」
 にこり、と笑う。
 糸咲は首をかしげる。
「わたしがどうして男と出かけるんだ……裕次、おまえおかしいぞ。熱でもあるんじゃないのか」
 本気なのか冗談なのか分からないが、彼女の表情はまじめそのものである。裕次はそれがおかしくて、目を細めた。
 糸咲はなぜ裕次が笑っているのか分からないのと同時に、なぜだか気恥ずかしくなってきて、頬を染めた。
「何がおかしい」
 照れ隠しか渋い顔をしている。
「いいや、別に」
 そういいつつくすくす笑う裕次の頬に、また笑窪がのぞいていた。
「ねぇ、糸咲。今度は僕と一緒に出かけようよ。もちろん、おめかししてさ」
「な、ぬ、ぅ、じ冗談はよせ! なぜおまえと出かけなければならないんだ」
 糸咲の言葉に一瞬悲しい目で微笑した。そして裕次は横を向きうつむく。
「冗談じゃないよ。……葛きり食べに行こうよ。おいしいお店見つけたんだ。糸咲好きでしょ、くずきり」
 裕次の横顔は、気のせいかうっすらと紅潮していた。糸咲はそれが意外で、何だか新鮮に感じた。
「……そのうちな」

 雨はもうしばらく、上がりそうにない。


-----+*+-----+*+-----+*+-----


 ごめんなさい。
 もう限界ですよ。
 何だこの文章。
 もっと鍛えます。
 すみません…(汗)

 糸咲も裕次も何者なのかよく分からないですね。


 立風露想:http://homepage3.nifty.com/rin-ka/

 (c)Rinka OKI 2006

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2006-01-29

夢めくり〔風〕


   夢 め く り 〔風〕


 俺は日野への道を歩いていた。
 竹刀や木刀、防具類がとても重かったけれど、そんなこと忘れてしまうくらいに、今日は気持ちの良い日だ。
 田んぼには菜の花や蓮華が咲き乱れていて、黄色や白の蝶が舞っていた。
 街道の道なりに朴(ほお)の白い花が咲いていて、すがすがしい香りが胸を満たした。
「少し休もう……」
 正午を回った頃だろうか。
 太陽は天(そら)高く昇っていた。
 丁度良いくらいの切り株を見つけたので、俺はそこへ腰掛け、竹筒と、竹の皮に包まれた握り飯を取り出した。握り飯は二つ入っていて、そのどちらもとても大きかった。お腹がすいている俺にとっては、ありがたいことだ。
 一口かじった。
 塩加減が丁度よくて、自然と笑みがこぼれた。
 景色もいいし、とても最高だ。幸せだ!
 さらにほお張ると、梅干が入っていた。姉さん自慢のお手製梅干だ。
 俺は姉さんの漬ける梅干が、昔から大好きだった。
 一つ目を食べ終わり、竹筒から水を一口飲んだ。そして二つ目へ手をかけようとしたその時、不意に子どもの声が聞こえた。
「だめ! 泣かないって、おにいちゃんと約束したもん!!」
 辺りを見渡すと、道の先で、子どもが泣いていた。
 まだほんの小さな、女の子だ。
 迷子だろうか。
 俺は握り飯を包み直し、竹筒と一緒に懐へ入れた。木刀と竹刀の入った袋に、防具類の入ったでかい袋をつり下げると、肩に担いだ。そして女の子の元へ向かった。
「おにいちゃん……おにぃちゃぁ……!」
 女の子はしきりに「おにいちゃん」を呼んでいた。
 俺のことかと思ったけど、どうやら違うようだった。
 女の子の目の前まで来ると、俺は懐に入れた握り飯を取り出し、その子に差し出した。
「どうしたの? 迷子? はい、これ食べなよ。おなかすいたでしょ」
 女の子はびっくりしたように顔を上げると、握り飯をじっと見て、それから俺を見た。
 涙で顔はべとべとだ。
 そして再び泣き出しそうだ。
 けれど、その子は袖で涙を拭くと、おそるおそる俺の手から握り飯を受け取った。握り飯が一段と大きく見えた。
 女の子はしばらく握り飯を眺めていた。不審な物が入っていないか疑っているらしかった。
「梅干だよ。姉さんお手製のとってもおいしい梅干なんだから!」
 俺の昼飯だったけど、この子が元気になってくれるならいいかな? なんて思った。姉さんの梅干はもったいないけど、また小石川に戻れば食べられるからいいとしよう。
 女の子は握り飯を一口かじった。どうやら疑いが晴れたようだった。俺は安心した。だけどやっぱり梅干はまだ少し未練がある。
「ねぇ、どこからきたの?」
 俺は尋ねた。
 女の子は悲しそうな目で俺を見上げて、それから首を左右に振った。揃えられた髪の毛がそれにあわせて扇のような形を作った。
 俺はどうしたらいいのか分からなかった。
「う~ん……どうしようかなぁ……?」
 今から佐藤さん家に行って、稽古をつけなくちゃならない。一緒に子のこの家を探すことなんて到底できない。どうしよう? まさか置いていくこともできないし……
「あ、そうだ!」
 いいことを思いついた!
「俺、今から稽古をつけに日野へ行くんだけど、君も一緒に来る? そうしたら、分かるかもしれないし」
 俺って天才かもしれない。
 佐藤さんとこに一緒に行って、佐藤さんに尋ねてみる。そして協力してこの子の家を探せばいいんだ!
 いいね、この考え!
 俺って、サイコーだ!!
 女の子は一瞬驚いたように俺を見たが、こくん、と首を縦に振ると、
「……行く。」
と小さく答えた。
「よかったぁ!」
 俺はひとまず安心した。
 それから女の子を肩車して、片肩に竹刀と防具を担ぎ、佐藤さん家を目指した。


「ねぇ、きみ、名前はなんていうの?」
 そう言えば名前をまだ聞いていなかった。
 女の子は大きな握り飯を黙々と食べていた。
「ハナ。わたし、ハナって言うの」
 さっきとはぜんぜん比べものにならないくらいに明るい声が返ってきた。
 ハナ、とは、今の季節によく似合う名前だなぁ、と思った。
 よく見れば、辺りは菜の花ばかりが咲いていた。菜の花は、なんだかおハナちゃんによく似合う。
「へぇ、ハナちゃんかぁ。かわいいね。菜の花のおハナちゃん」
 そう言うと、肩の上のおハナちゃんは恥ずかしそうに笑った。
 笑顔のとても似合う子だ。
 本当にかわいいなぁ。
 まるで妹のようだ、と思った。
 妹がいたら、こんな風に散歩したり、おしゃべりしたりしたのかな?
「おにいちゃんはなんていうの?」
 おハナちゃんが聞いてきた。
 俺は自分の名前が気に入っていたから、自信を持ってこう言った。
「俺は宗次郎! こう見えても『試衛館(しえいかん)』って道場の塾頭をやってるんだ」
 言ってから、この子に分かるかなぁ? と思った。
「……て言っても分からないよね……」
 小さい子と話すのなんて、あまりないことだから……何を話したらいいのかよく分からない。
 俺は少し落ち込んだ。
 しかし、俺の心配はよそに、どうやらおハナちゃんには通じたらしい。
「宗次郎は強いの?」
 握り飯を食べ終わったおハナちゃんが言った。
 俺は感激した。
「うん、強いよ!」
「おにいちゃんより?」
 おハナちゃんの言うお兄ちゃんとは、誰だろう? きっと、きょうだいのことだろうけども。
「おにいちゃん? そうだなぁ…多分強いよ。だって、俺は天才だから」
 自信を持って答えた。
 だって、本当に俺は強いんだもの。
 若先生だって、周斎先生だって「宗次郎は強いな、天才だ」て言ってくれる。
 だから俺は強い!
「ふーん。宗次郎は強いんだ。おにいちゃんが知ったら、きっとびっくりするよ」
 おハナちゃんはそう言って笑った。
 俺は嬉しかった。
 おハナちゃんが元気になってくれたし、よく笑ってくれるし。
 握り飯のことは未練だったけど、でも、おハナちゃんが元気になってくれたのだから、もう握り飯のことなんてどうでもいいや。
 佐藤さん家に着くまで、いろんなことをおハナちゃんと喋った。菜の花のこととか、竹馬のこととか、ご飯のこととか、剣術のこととか、それからおハナちゃんのお兄ちゃんのことも、そして俺の大好きな若先生と、恥ずかしがり屋で頑固者の歳三(としぞう)さんと、俺に剣術を教えてくれた周斎先生のこと。
 短い時間だったけれど、本当の妹を持ったみたいで、俺は本当に楽しくて、嬉しくて、幸せだった。


 佐藤さん家に着いた。
「ごめんくださーい、試衛館の沖田です!」
 開け放たれた扉から大きな声で名乗った。
 けれど返事はない。
 もう一度呼んでみた。
「佐藤さーん、いますかー?」
「はーい、ただいまぁ!」
 家の奥から、この家の長男・勝之さんと、弟の源之助と二人の母・おのぶさんが出てきた。
「ああ、沖田先生! ようこそいらっしゃいました。どうぞお上がりください…て、ハナ?! あんたどこ行ってたの!!」
 おのぶさんが突然驚いた様子で、俺の肩の上のおハナちゃんを見て言った。
「へ? おハナちゃんとお知りあいですか?」
 俺はおハナちゃんを見上げた。
「知り合いもなにも、うちの娘ですよ! もう、本当にご迷惑おかけしました……ハナ、先生の肩から降りなさい。勝之、源之助、先生のお荷物を運んで差し上げて」
 それまで唖然としていた勝之さんと源之助はふと我に帰ると、
「お荷物を預かります」
と言って、部屋へ運んだ。
 おのぶさんは俺の肩からおハナちゃんを抱きかかえて地面へ降ろすと、
「もう、心配かけないで。ああ、でも本当に良かった……」
と、無事を確かめるように抱きしめていた。
 それからおのぶさんは何度もお礼の言葉を述べてくれたけど、お礼を言いたいのはこっちの方です、て言いたかった。
「おハナちゃん、よかったね」
 声をかけると、おハナちゃんはにこりと笑った。
「でも本当にびっくりしたなぁ……おハナちゃんが、佐藤さんとこの娘さんだったとは。世界は不思議だ……」
 本当にびっくりした。
 これもなにかの巡りあわせなのかなぁ?
 俺は神様を信じていないけれど、神様にお礼を言わなくちゃいけないな。
 俺はそれから4日間佐藤さん家に泊り込みで、兄弟二人の稽古をつけた。
 おハナちゃんは毎日、道場の片隅で稽古を見ていた。
 静かに、じっとして。
 そうしていると、まるで人形の様だと俺は思った。


 4日間の出稽古も終わり、小石川へ帰る日がやって来た。
 おハナちゃんは朝から俺に着いて回っては、さびしそうな顔をしていた。
「ねぇ、宗次郎」
 帰り支度をしていると、おハナちゃんが袖を引いた。
「ん? なに?」
「宗次郎と、もう会えないの?」
 俺は笑顔でおハナちゃんへ振り向いた。
 けれど、本当はさびしかった。
「また来るよ。今度は6月だ。それまで元気にしているんだよ、おハナちゃん」
 おハナちゃんはさびしそうに笑った。
 小さな子どもでも、こんなに複雑な顔ができるんだ。
 けれど、おハナちゃんのそのさびしそうな笑顔は、本当に透き通っていて、とても印象的だった。
「えらいぞ」
 おハナちゃんの頭を、何度も何度も撫でた。
 おハナちゃんの顔が、今にも泣き出しそうな顔に変わった。
 けれど、おハナちゃんは泣かなかった。
 また会える
 俺はそう自分に言い聞かせて、佐藤家を後にした。


     * * *


 黒猫がいた。
 うららかな陽射しの溜まる縁側に。
 春の風が部屋を吹きぬける。
 あの頃の風。
 黒猫のその向こうに、小さな少女の影が見える。
 少女は「宗次郎!」と菜の花のような明るい声で呼んだ。
 もう俺のものでない、俺の名を。


 今行くよ、おハナ……


 黒猫がいる。
 俺の目の前に。
 邪魔をしている。
 再会を。
 俺はそろそろと枕元へ手を伸ばし刀を掴んで、夜具から抜け出した。
 震える手で刀を抜いた。
 俺の相棒は冷たく笑っていた。
 多くの戦場を、こいつと共に切り抜けてきた。
 平正眼に構える。
 黒猫は俺を見据えたまま、動こうとしない。
 ……嫌な眼だ。
 じりじりと、間合いを詰める。
 そして俺は刀を振り下ろした。
 空が地面になった。
 黒猫は消えた。
 おハナは……
「あれ、旦那様っ!」
 母屋から人が来た。
 転倒してもなお立ち上がろうとする俺を、必死に押さえつける。
 こんな所で死んでたまるか
 俺は生きるんだ
 俺は生きなければならないんだ
 俺は会いに行かなければならないんだ……!

『もういいよ、宗次郎。』


 おハナが笑った。
 世界が光に包まれた


<おわり>


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 出品:第14号「まんぐろうぶ」2005年1月11日発行
 (c)Rinka OKI 2006

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夢めくり〔光〕


   夢 め く り 〔光〕
 

 ひらひらひら
 漆黒に玉をはめ込んだような蝶が舞っていた。
 わたしは蝶を、夢中で追いかけた。
 家の庭を飛び出して、菜の花畑を越えて、小川を越えた。
 宝石のような蝶は、わたしをからかっているのか、頭の少し上の方をゆっくりと、けれども走らないとついて行けないほどの速さで舞っている。
 優しい陽射しにきらきらと翅(はね)を輝かせ、蝶はどんどん進む。
 気が付けば、来たこともない所へ出てしまっていた。
 朴(ほお)の花が道沿いに咲いている、街道だった。
 青空が、とてもきれいだった。
 菜の花が風に揺れていた。家の目の前の菜の花畑には劣るけれど……。
 きれいなところだったけれど、わたしは急に不安になった。
 わたしは走るのをやめた。
 蝶はわたしの頭上で輪を描くと、ひらひらとどこかへ消えてしまった。
 こわい。
 見たこともない道。
 誰も通らない。
 迷子になっちゃったのかしら?
 どうしよう、お母さんに怒られちゃうかも
 どうしよう……
 不意に目の前が水の底に沈んだ。
 ぼろぼろと涙がこぼれた。
「だめ! 泣かないって、おにいちゃんと約束したもん!!」
 わたしは自分に言い聞かせた。
 泣き虫のわたしは、お兄ちゃんと約束したんだ、「もうなにがあっても絶対泣かない」と。そしたらお兄ちゃんは、わたしを精一杯誉めてくれると約束してくれた。
 だからわたしは泣いちゃいけない。
 けれど迷子になっちゃったら、大好きなお兄ちゃんとももう会えないかもしれない……。そう思うと、さっきよりもさびしくて、悲しくて、涙が止まらなくてどうしようもなかった。
「おにいちゃん……おにぃちゃぁ……!」
 お兄ちゃんに会いたい
 お兄ちゃん、助けて……!
「どうしたの? 迷子? はい、これ食べなよ。おなかすいたでしょ」
 突然男の人の声がして、わたしは顔を上げた。
 まず、真っ白で、大きなおにぎりが目に入った。わたしはちょっとびっくりした。
 そのまた先を見ると、目の前に、お兄ちゃんと同じ歳頃の人が、私の顔を覗き込むようにして立っていた。
 真っ黒な稽古着に細長い袋を担いで、その先に大きな大きな袋を下げて。
 剣術をやってる人だとすぐにわかった。
 お兄ちゃんも剣術をやっているから。
 わたしはぐいっと涙をぬぐった。
 そう言えば、蝶を追いかける前からお腹がすいていたのだった。けれども、蝶を追いかけることに夢中になって、空腹を忘れていた。
 急に、腹の虫が目を覚ました。
 そうしてとりあえず、おにぎりをもらった。
 でも、毒が入っていたらどうしよう。
「梅干だよ。姉さんお手製のとってもおいしい梅干なんだから!」
と、その人は言った。
 わたしは一口かじった。梅干は見えない。
「どこからきたの?」
 にこにこ笑いながら、その人が聞いてきた。
 わたしは分からなかったから、首を横に大きく振った。
 するとその人は困ったように笑った。
「う~ん……どうしようかなぁ……? あ、そうだ! 俺、今から稽古をつけに日野へ行くんだけど、君も一緒に来る? そうしたら、分かるかもしれないし」
 その人はまたにっこりと笑った。
 笑顔がとてもきれいで、なんだかまぶしかった。
 わたしの「さびしい」気持ちは、いつの間にか小さくなっていた。
 わたしはこくり、と大きくうなずいて
「……行く」
と言った。
 笑顔のその人は、
「よかったぁ!」
と、とても嬉しそうに笑った。
 それからその人はわたしをひょいと抱き上げて肩車をすると、重い荷物を持っているにも関わらず、軽々と菜の花の中を歩いていった。
「ねぇ、きみ、名前はなんていうの?」
 その人が聞いてきた。
 わたしは肩の上でおにぎりをほお張った。梅干が見えてきた。
 ちょっと元気がわいてきた。
「ハナ。わたし、ハナって言うの」
「へぇ、ハナちゃんかぁ。かわいいね。菜の花のおハナちゃん」
 わたしはにっこりと笑った。
 その人も笑っていた。
 梅干をかじった。酸っぱい味が口の中に広がった。けれどその梅干はとてもおいしかった。
「おにいちゃんはなんていうの?」
 わたしは聞き返した。
 するとお兄ちゃんは誇らしげに言った。
「俺は宗次郎!」
「そーじろー?」
「うん! 宗次郎! いい名前でしょ。とっても気に入ってるんだ!」
と、お兄ちゃんはうれしそうに笑った。
 わたしも「ハナ」て名前は好きだけど、こんなに自分の名前が好きだって人ははじめて見た。
「こう見えても『試衛館(しえいかん)』って道場の塾頭をやってるんだ。……て言っても分からないよね……」
 宗次郎は苦笑いしてたけど、わたしにはなんとなく分かった。きっとすごい人なんだろうなぁ、て。だけどなにがすごいの? と聞かれても、答えられない。本当に、なんとなくそう思っただけなのだから。
「宗次郎は強いの?」
「うん、強いよ!」
 自信たっぷりに答えた。
 きっと宗次郎は、自分が大好きなんだ。
「おにいちゃんより?」
「おにいちゃん? そうだなぁ…多分強いよ。だって、俺は天才だから」
 そう言って宗次郎は、胸を張った。
 なんだか足取りも、さっきよりも軽やかで、自信に溢れていた。
 宗次郎とは、たくさんたくさんお喋りをした。
 宗次郎はヘンだ。
 お兄ちゃんとは違って、なんだか、おかしい。
 だけどわたしは、お兄ちゃんの次に宗次郎が大好きになっていた。
 

「ごめんくださーい、試衛館の沖田です!」
 宗次郎はある家の、開け放たれた扉から大きな声で名乗った。
 とてもよくとおる声だ。
 でも、それよりもっと重要なのは……
「佐藤さーん、いますかー?」
 家の奥から、女の人と、宗次郎と同い歳の男の人とその弟が出てきた。
「ああ、沖田先生! ようこそいらっしゃいました。どうぞお上がりください…て、ハナ?! あんたどこ行ってたの!!」
「へ? おハナちゃんとお知りあいですか?」
 宗次郎が肩車をしているわたしを見上げた。
 あ、そうか、わたしは迷子になっていたんだ。
「知り合いもなにも、うちの娘ですよ! もう、本当にご迷惑おかけしました……ハナ、先生の肩から降りなさい。勝之、源之助、先生のお荷物を運んで差し上げて」
 お母さんの言葉に、唖然としていたお兄ちゃんとげん兄ははっとしたように宗次郎から荷物を預かると、部屋へ運んだ。お母さんはわたしを宗次郎の肩から降ろすと、ぎゅっと抱きしてめくれた。
「もう、心配かけないで。ああ、でも本当に良かった……」
 お母さんは、宗次郎に何度も何度もお礼を言っていた。
 宗次郎は相変わらずの笑顔でそれに答えていた。
「おハナちゃん、よかったね」
 宗次郎はにこりと笑って、わたしの頭を撫でてくれた。
 わたしはとても嬉しかった。
「でも本当にびっくりしたなぁ……おハナちゃんが、佐藤さんとこの娘さんだったとは。世界は不思議だ……」
 宗次郎は腕組みをして、うーん、と唸っていた。
 宗次郎はそのあと4日間ほど家に泊り込みでお兄ちゃんたちの稽古をつけていた。
 わたしは毎日、お兄ちゃんたちの稽古を道場の片隅で見ていた。
 木刀を振るう宗次郎は、まるで別人だ。
 稽古はとても厳しいし、宗次郎は容赦ない。
 げん兄は一度稽古を放り出して、お母さんにこっぴどくしかられた。
 今までも遠くから稽古をつけにやって来てくれる人がいたけど、その人とは比べものにならないな、と思った。
 宗次郎の中には、きっと鬼がいるんだ。
 けれど、やっぱり宗次郎はよく笑うし、とてもやさしい。
 道場にいるときの宗次郎はとても楽しそうで、本当に剣術が好きなんだな、と幼心に思っていた。
 わたしはそんな宗次郎が大好きだった。
 きょうだいが増えたようで、とてもとても嬉しかった。
 勝之お兄ちゃんとも話が合うようで、稽古のあともよく話していた。
 わたしはその輪の中に加わって、じっと耳を傾けているのが好きだった。けれど、二人が何を話しているのかは分からなかった。きっと剣術のことだろうと思う。
 このまま宗次郎がうちにいてくれればいいのになぁ、と思っていた。


 宗次郎が帰る日がやって来た。
 わたしは朝から、とてもさびしかった。
 宗次郎と離れるのが辛くて、帰り支度をしている宗次郎に、わたしは朝からくっついていた。だからお母さんやお父さんに注意された。
 けれど、わたしは宗次郎の傍から離れなかった。
「ねぇ、宗次郎」
「ん? なに?」
「宗次郎と、もう会えないの?」
 宗次郎は笑っていたけど、なんだかさびしそうに見えた。
 こんな宗次郎を見るのは初めてだった。
「また来るよ。今度は6月だ。それまで元気にしているんだよ、おハナちゃん」
 宗次郎は笑った。
 そうしてわたしの頭をくしゃくしゃと撫でてくれた。
 わたしは一生懸命涙を堪えていた。
 宗次郎はそれを見て、また笑った。
 

     * * *
 

 懐かしい夢を見た。
 忘れかけていた、温かい想い出。
 風のように過ぎ去ってしまった、遠い昔。
 あの人は今ごろ、どうしているのだろう。
 生きていれば、もう随分お爺さんになっているはずだ。
 

 沖田宗次郎
 

 彼は幼いわたしの、暖かな風だった。


<おわり>


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 出品:第14号「まんぐろうぶ」2005年1月11日発行
 (c)Rinka OKI 2006

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2006-01-28

時雨

「ふたりがいる風景で10のお題」(立風露想:沖鈴花)
 08.もう大丈夫


   時 雨


 今は少し、昔語りをしましょう。
 月のない、さみしい夜だから
 しとしとと、降りしきる時雨(しぐれ)に耳を傾けながら
 今はただ、君と語り合いましょう。


「ずいぶん続くわね」
 重い夜の空を見上げる壱与(いよ)の目は、憂鬱というよりどこか楽しげに輝いている。腕を伸ばすと、冷たい雨つぶをその手のひらにすくった。雨粒は壱与の手のひらの上に落ちては一つになり、小さな水たまりをつくった。
「壱与、中へ入りなさい。風邪をひくよ」
 白の単(ひとえ)姿の華羅(から)は、今はほとんどの遣戸(やりど)を閉めた広廂(ひろびさし)から、簀子縁(すのこえん)に立つ彼女へ穏やかに声をかけ、手招きした。華羅の結い上げた髪は、ばらばらと崩れかけていた。
「濡れてない」
「ええ、大丈夫よ。……ここは冷えるわ。さ、中に入って」
 御簾(みす)を持ち上げると、華羅を先に中へ入れ、自らも中へ入った。広廂よりも明るく、そして暖かい。
 華羅は高麗端(こうらいべり)の畳に敷かれた夜具の上に座り、壱与はその傍らの円座(わろうだ)に腰を落ち着けた。
「気分はどう」
「うん、さっきよりもいいよ」
 やんわりと微笑み、壱与は華羅の額へ手を当てた。その指先は、時雨のせいでひんやりと冷たい。
「まだ熱いわね……もうちょっと横になっていたほうがいいわ。それとも何か食べれそう」
「……少し、起きていたいんだ。熱にうなされて、何だか眠るのが怖いんだよ」
 いつもは強気な華羅は、弱弱しく言うと目を伏せた。
「華羅がそんなに弱気だなんて、珍しいわね……さ、横になって。わたしが側にいるから、大丈夫」
 愛おしむような声。
 壱与は静かに目を細めた。
「……オレ、子供みたいだな」
 苦笑しつつ横になる。
「病気になると、誰でもそうなるものよ。心も弱ってしまうのね」
 ふたりは小さく笑い合った。華羅はふと格子の向こうへ目を向けた。
「雨の音は、きれいだな……壱与は昔から雨が好きだったね。広廂に座って、ずっと空を見上げていた。彩夜(あや)の生まれた晩も雨が降っていて、外が見たいという君を抱えて一緒に夜空を仰いだのを覚えてる……あの日は雨だというのに、美しい夜だったよ」
「ええ、きれいな夜だったわね。春雨が薔薇(そうび)に柔らかに降り注いで、若葉を温かくゆらしていた……まるで精一杯生きなさい、と励ますかのようだった――彩夜も激励されているんだって、きっと強く優しい子になるなって感じて、とてもうれしかったわ」
 遠い日々の幸せが、ふたりの間に広がっては、再び静かに消えた。
「雨だれは、いろいろな記憶を思い出させるの。いい思い出ばかりじゃないわ。悲しいこともたくさん……――華羅が亡くなった日も、冷たい雨が降っていた。わたしが天津國(あまつくに)へ初めて足を踏み入れた時も、大雨が降っていたわね……ひどい雷だったわ」
 微笑の中にどこか悲しい色を湛えた壱与の眸が、華羅の眼を捉えた。
「――オレたちが出逢った日は、桜の雨が降っていたね。壱与が桜の精のようだと思った……本当に、美しかった……」
 最後はその光景を目の前に見ているように、華羅はささやくようにうっとりとつぶやいた。
「ふふ……あの華羅の驚いたような顔が、桜の花びらの影にかくれたり、あらわれたりする様子が、まるで昨日のことのように鮮明に覚えているわ。あの時も華羅は、わたしに“桜の精か”って訊いたのよ。覚えてる」
「ああ、覚えてるさ」
 燭台の油が、ジジっと鳴いた。
 燈りが揺れ、ふたりの影もそれに合わせてゆらゆらと揺らめいた。
「そろそろ、眠れそう」
 壱与の問いに、華羅は小さくうなずいた。
「だいぶ落ち着いてきたよ……ねぇ、抱き締めていい」
 華羅は静かに尋ねると、体を起こした。
 壱与は答える代わりに、小さく微笑む。華羅も微笑み返すと、そっと壱与の肩を抱き寄せた。
 華羅の腕は熱のせいか弱弱しく、また、熱かった。
 大切な人が、早く元気をとり戻しますように、と祈りを込めて、壱与も華羅の背中を抱き締めた。
 しばらく静寂と、軒を打つ雨だれの音が、時を流れた。
「……ありがとう。もう、大丈夫」
 そっと腕を解く。
 雨はまだ、暗い地面へ落ちてはさわさわと歌っている。


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 建物の構造とか名称が間違ってるかもしれないです。
 間違えを見つけた方は、是非教えてください。

 ちなみに壱与と華羅は、黄泉の国の人間です。
 説明が少なく、すみませんでした


 立風露想:http://homepage3.nifty.com/rin-ka/

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連載

  沖りんかのよみもの 【連載小説】


 そろそろ作品が溜まってきたので、目次代わりに作ってみました。
 どうぞご活用ください。
 本館「立風露想」にも、ちょこちょこ載せていますので、よろしければ覗いて見て下さいね


↑古 ↓新


・ 天体観測 :天体観測同好会のはちゃめちゃ?なお話。
  第一星
  第ニ星
  第三星
  第四星
  第五星
  第六星
  第七星/終章


・ 異形者 -いぎょうのもの- :鬼と人間のお話。まだどうなるか不明。。。
  第一回
  第二回
  第三回
  第四回


・ 硝子玉の向こう側 :タイムスリップしてしまうという話。時代劇になる予定
  プロローグ
  一、時空を超えること(06.09.22更新)


・ キヨシ、コノ夜。 :悲恋。以前書いたものを書き直し中。内容はだいぶ変わる予定
  
  第一夜


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 これからどんどん増えていく予定です(予定はあくまで未定)

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短編

  沖りんかのよみもの 【短編小説】


 そろそろ作品が溜まってきたので、目次代わりに作ってみました。
 どうぞご活用ください。
 本館「立風露想」にも、ちょこちょこ載せていますので、よろしければ覗いて見て下さいね


↑古 ↓新
 

桜歌 -さくらうた-「葬送」構想
  →太一と神楽のお話のうち、一部だけ切り取ったもの。ちょっぴり臭い(?)恋話…

胡蝶の夢
  →蝶が大好きな青年と、幼馴染の女の子の話。

真夏の悪夢
  →兵衛流道場で繰り広げられる、どたばた恋愛(?)騒動記。「桜歌」の源流だったりする…

無題「異形者 -いぎょうのもの-」
  →連載「異形者」の覚え書き。使われるか使われないかはまだ不明。

夏の夕べ
  →「ふたりがいる風景で10のお題/01.くだらないおしゃべり」より。稽古をさぼっている双子の兄弟の、くだらないおしゃべり。

時雨
  →「ふたりがいる風景で10のお題/08.もう大丈夫」より。壱与と華羅の、雨にまつわる話。

夢めくり〔光〕
  →迷子になってしまった小さな女の子のお話。一応歴史物

夢めくり〔風〕
  →自分が大好き(?)な、青年のお話。一応歴史物

夕立
  →「ふたりがいる風景で10のお題/06.雨宿り」より。裕次と糸咲の雨宿りでの話。意味不明。


  →「ふたりがいる風景で10のお題/04.いつもの通学路」より。飛鳥と沙綾のいつのも通学路で。

華の親バカ記
  →「ふたりがいる風景で10のお題/02.しらんぷり」より。華羅の親バカが書きたかった…


  →授業でお墓について勉強してる時に、考えてみたもの。暗い

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2006-01-27

硝子玉の向こう側

  硝子玉の向こう側


 部活も終わって、修一は仲間よりも一足早く更衣室へ入った。
 更衣室には、汗と熱気と楽しそうな笑い声でにぎわっている。
「修一、先上がるぞ! また来週な。あと戸締りよろしく!」
「おう、まかせとけよ! じゃあ浩太、おつかれな!」
 いつの間にか、修一だけとなってしまった。
 帰り支度をすませた修一は、更衣室とシャワー室の窓を閉めると、鞄を肩に担ぎ、更衣室を出た。すると何かが足先に当たった。ふと視線を下げると、そこにはガラス玉が落ちていた。赤の波模様が鮮やかな、どこか懐かしさを感じさせるビー玉である。修一はかがむと、それを拾い上げた。
「ビー玉なんて懐かしいなぁ。昔はよく遊んだけどな……」
 手のひらの上で転がしながら、修一は体育館を出た。
 階段のすぐ手前で警備員のおじさんと鉢合わせした。
「おぅ、お疲れさん。戸締りはしてくれたかい?」
 もう毎日のように顔を合わせているため、おじさんは挨拶代わりに笑顔を向けた。
「ばっちりだよ。中村さんもお疲れっす!」
 修一も笑顔を返すと、階段を下った。と、何段か降りたところで足を滑らせる。慌てて手すりをつかもうと手を伸ばすが指先がわずかにかすって、空をつかんだ。持っていたビー玉が目の前に浮いている。暗い空が視界に広がった。修一は気付かなかったが、彼は叫んでいた。警備員のおじさんはその声に驚いて階段を勢いよく下った。その先には、修一がうつぶせに倒れている。慌てて駆け寄ると、修一は頭から血を流し、意識を失っていた。


<続>


2005/11/15原稿


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 駆け足ですみません。
 続きは只今執筆中です…
 気長にどうぞ!(苦笑)

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夏の夕べ

「ふたりがいる風景で10のお題」(立風露想:沖鈴花)
 01.くだらないおしゃべり


   夏 の 夕 べ


 双子の兄弟は土手の草の上に寝転び、段段と沈殿してゆく空を仰いでいた。この双子の兄弟、兄を太一、弟を裕次と申す。しかし双子といってもこの二人、顔はそっくりでも姿形はもちろん性格までばらばらである。ちょっとやそっとじゃ双子とは分かるまい。例を挙げてみるならば、兄の方が背は低く、弟の髪は豊かに波打っている。また、性格ならば兄は頑固で一直線、弟は温厚で思慮深い。言うなれば兄が動、弟は静である。


「なぁ、裕次」
「なに、太一」
 気だるい太一の声が、幽かに通る生温かい風と共に、傍らの草花をくすぐった。
 すぐ上の往来では、いつもよりどこかおめかしをした人々が行き交い、賑わっている。
 時折「かんざしー」や「さかなー」などの商人の威勢のいい声、または風鈴の涼しい音色が町を一層活気付けた。
「俺たち、何でこんなとこにいんだろ」
 相変わらず太一は空の一点を見つめたままである。その眸には力がなく、ただ空の上澄を映している。
 近くの木で、ヒグラシが鳴き始めた。
「さぁねぇ……。勝之兄さんにこてんぱんに伸されて、道場飛び出してきたからじゃなかったっけ」
「おぅ、上等だぜ」
 何が上等なのかはわからないが、裕次は兄が自分自身の大胆な行動に満足しているのだろうと了解した。
 目の前を、しじみ蝶がちらちらと横切った。
「なぁ、裕次。なんで空は悠(ひろ)いのかね」
「さぁねぇ……。きっと海なんだよ。海だから悠いのさ」
 裕次は口端を緩ませた。
 空のてっぺんは、紺の澄んだ色へと変わっている。それに追いやられるように、下の方では赤やだいだいや紫が、混じり合うとも合わないともつかないような、沈殿の層をつくっていた。
「海? だったら水が落ちてくる」
「雨がおちてくるじゃないか」
「じゃぁ海に星はあるか」
「うーん……きっと貝が泡ふいてるんだよ」
 紺だまりの深いところに、一番星がちかちかしている。
「甘いな、裕次。空が悠いのは巨人が住んでるからに決まってる!」
 妙に自身満満に言い切ると、太一は目を輝かせた。
 裕次は神妙な面持ちで隣の兄を見た後、思わず噴き出してしまう。太一はそこで初めて空から目を離した。
「なんだよ」
「なんだよって……巨人? 空に巨人が住んでるの? あははは……太一はおもしろい」
 裕次は腹に手を当て笑っている。
 太一は眉間に縦じわを寄せた。
「巨人が住んでるんだったら、なんで落ちてこないの」
「あぁん? 俺らが見てるのは巨人の住んでる世界の床だからに決まってるじゃねぇか」
「じゃぁ雨は何で降るのさ」
「そりゃ巨人が暴れてるのさ」
 その言葉に裕次は体を曲げた。目尻から涙が流れる。
「だったら雷は巨人が怒ってるから?」
「夏は巨人がはっちゃけてるから暑い」
「何それ。もうおかしすぎるよ、太一……あぁ、苦しい」
 裕次の笑いはおさまらない。体をねじって笑っている。太一はそんな弟のエビのような姿に笑う。
 太陽はすでに山へ消え、空の紺が残滓を飲み込もうとしていた。天河が流れ、織女星と牽牛星が互いを河の両岸で呼び合っている。
「……見て、太一。もうあんなに星が出てる」
 どうやら笑いのツボから抜け出せたらしい裕次が、空を指さした。目が涙で潤んでいる。
「きれーだなー……」
 遠い目で、太一はつぶやいた。
 ちかちか ちかちか 星の囁きに耳をかたむける。
「神楽と一緒に見たかったんでしょ。太一って結構、浪漫チストだから」
「うるせぇやい」
 照れを隠すために険しくした顔は、ほのかに赤く色づいていた。裕次は小さく笑った。
 と、不意に風を裂く笛の音が響いた。
「お、始まったか」
 太一は体を起こす。
 裕次もつられて体を起こした。
 そして夜空に花が咲いた。
「もしかして太一、今日花火大会だから道場抜け出したの? ……巨人も見てるのかな、花火」
「へへっ。うるせぇや」
 花火が上がるたびに、四方から歓声も上がった。


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 「立風露想」http://homepage3.nifty.com/rin-ka/

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2005-12-29

真夏の悪夢

 兵衛流錬衛館道場の師範代、勝之は、朝からふたりの様子がおかしなことに気付いていた。
(また喧嘩かね…相変わらず飽きないものだ)
 彼は中庭に面した部屋で読書をしながら、向かいの廊下を行ったり来たりするふたりの様子を見ていた。否、見ていたと言うよりあまりにも視界の隅で落ち着かない様子でパタパタされるものだから、嫌でも気になる。
 せっかくの休日を、勝之は読書でもして静かに過ごそうと決めていたのが、もうすでに半分、あきらめていた。
「菊。さっきから龍之助と代わる代わる行ったり来たりしてるようだけど、どうしたんだ?」
 目の前を通りかかった彼女へ声をかけると、菊は今にも泣き出しそうな顔で中庭を横切り、勝之のもとへと駆けて来た。
「勝之さん聞いて! 龍之助のやつ、朝からあたしを避けてるの!」
 良くぞ訊いてくれましたと言わんばかりの勢いで、菊は勝之へ言った。
 それを聞いて、勝之は苦笑したかと思うと溜息ついた。
「また喧嘩したのか?」
「そうなの! だってね勝之さん、龍之助が悪いのよ! あたしが心をこめて作ったインゲンのおひたしを、インゲンが嫌いだからってこっそり太一のお膳に移したの。ひどいでしょう? あたしがせっかく作ったのに! 龍之助は平気で残したの! 太一なんかじゃなくて龍之助に食べてもらいたかったのに……っ!!!」
 ヒステリック気味に菊は訴えると、今朝の出来事を思い出したのか、きりきりと歯を食いしばった。
(そうか、だから太一のおひたしだけ妙に量が多かったのか…)
 勝之も朝食の光景を思い出していた。
 この道場では食事は、師範も内弟子も揃って全員でいただくと言うしきたりである。その時確かに、太一の膳のインゲンのおひたしが他の者の膳より妙にボリュームがあったのだ。勝之はその時はそんなに気にはしていなかったが、その事に気付いた太一初め他の門弟達が、なぜ多いだの俺のは少ないだの分けろだのとがやがや騒いでいた。
「……龍之助の奴もおかしな奴だよ、インゲンが嫌いだからって。まったく……」
 嫌いなインゲンのおひたしを、こっそり太一の膳に移したのも、菊が丹精込めて作ってくれたと承知しているからではないだろうか。それが菊にバレて申し訳ないがために逃げ回っている……勝之はそう思った。
  朝からのふたりの様子が目に浮かんで、なんだかおかしかった。
「勝之さんどうして笑うの!? あたし、真剣なんですよっ!」
「ああ、分かってるよ……そうだ、しばらく追いかけるのはやめてみたらどうだい? きっと龍之助の奴も、反省しているだろうから、そのうち向こうの方から謝ってくるだろうよ」
「龍之助が? あいつ奥手で、間抜けで、弱虫で自分から物言ってきたこと無いんですよ!?」
 腕を組むと、ふん、と顔を背けた。
「ははは…兄として恥かしいよ……まぁ、俺からも言っとくから、しばらく静かにしていなさい。あまりパタパタされると、他の者も落ち着かない」
 勝之の言葉に、菊ははっとしたように彼を見上げた。
「勝之さんごめんなさい……あたし、他の人のことまで考えてなかった……」
 勝之は立ち上がると、笑顔だけを菊へ残し、部屋を後にした。


   +*+   +*+   +*+


「千代、おれ、やっぱ怖いよ……!」
 半分べそをかきながら、龍之助。
 千代は苦笑する。
「菊ちゃんはいい子よ? ちゃんと話せば分かってくれるわ」
 でも…と言ったまま、龍之助はうつむく。
「逃げてばかりじゃ菊ちゃんもかわいそうよ」
「だけど怖いんだよ! お菊はすぐぶつし、怒鳴るし、今日も朝からずっと追いかけられるし……なんで女の人って、あんなに怖いんだろう?」
 はぁ、と深い息をつく。
 開け放たれた引き戸から、夏の香りが流れてくる。
 外ではセミの音が、やかましいほどに深い空へこだましていた。
「……インゲンのおひたし……お菊が心を込めて作ってくれたんだって、分かってるよ。お菊には悪いことをしたなって、反省してる。でも、インゲンが嫌いなんだよ! 今朝もお菊に申し訳ないと思いながらも、だけど仕方なく太一の膳にこっそり移し変えたんだ。誰にもバレないって思ってたのに、なんでバレちゃったんだろ……」
 途方にくれたような顔。
 そんな幼馴染の横顔に、千代は苦笑する。
 物心つくころから菊と龍之助たちとともに育ち、そしてふたりを見てきた千代は、ふたりの良き理解者である。
 こうしてふたりに頼られていると、姉になったようでとても嬉しく思っていた。
「ねぇ、龍之助。だったら思い切って菊ちゃんにごめんなさいって、言ってみたらどう? 素直に話したら、菊ちゃんもきっと分かってくれるわ。ね?」
「千代はお菊に甘いんだ。さっきから『お菊ちゃんなら分かってくれる』って、そればっかりだ。……お菊、許してくれるかな……?」
「ええ、きっと分かってくれる。わたしからも話してみるわ。だから、がんばるのよ」
 千代はそう言って立ち上がった。
 龍之助は自信のなさそうな顔で千代を見上げると、頼りなくうなずいた。
 千代は笑みを浮かべると、部屋を出て行った。


 太一と裕次の双子の兄弟と、神楽が呼ばれたのは、誰もいない道場だった。
 否、この道場の一人娘と師範代を除いては。
「特別に稽古でもつけてくれるのかよ」
 不機嫌、という言葉を貼り付けたように、むすっとした顔で太一。
「太一、だから喧嘩腰で物を言うのはやめてって言ってるじゃないか」
 裕次は呆れたように眉を落す。
「裕次くんも大変ね。太一ったらほんと、喧嘩っ早いんだから」
「う、うるせぃやいっ!」
 太一は顔を赤く染めると、そっぽ向く。
 神楽はその横でおかしそうに小さく笑った。裕次も微笑んだ。
「おまえは本当に剣術馬鹿だな」
 勝之の言葉に、太一の眉間の皺がさらに深くなる。しかし、彼も扱いが慣れたもので、門弟に二の句をつがせない。
「実は頼みがあるんだ」
「頼み?」
 3人は同時に首をかしげると、身を乗り出す。
「今日の花火大会に、行ってほしいのよ」
 勝之にかわって千代が答えると、再び3人は首をかしげた。
「それだけかよ」
 太一。
「お千代姉さん、どういうこと?」
 神楽。
「それだったらみんなで行きましょうよ、せっかくのお祭りだ」
 裕次。
「それが只事じゃねぇんだ。だからこうして頼んでるんだ」
 三度首をかしげる。
 その様子を見た勝之と千代は、顔を見合わせ苦笑した。
「実はな……」
 5人は自然と小さな円を作ると、肩を寄せ合って、秘密の会議が始まった。


   +*+   +*+   +*+


「お菊姉さん、早く早く! いい場所取られちゃうよ!!」
「もう神楽ちゃん、そんなに走らないで! 花火はどこからでも見れるでしょう?」
 神楽に手をひかれ、菊は道場の裏の土手を走っていた。
「そんなこと言ってたらダメだよ! もう花火始まっちゃいますよ! とってもいい場所を知ってるの。お菊姉さんもきっと気に入るわ!」
 相変わらずきらきらして、かわいい子だ、とお菊は思う。神楽を見ていると、知らず知らずの内に微笑んでしまう。人懐こくてくるくるとよく動き回る神楽は、みていて飽きないし、菊にとっては妹のような存在である。手を引かれて走りながらも、内心嬉しく思っていた。
「まだ走るの?」
 そろそろ菊も神楽も息が上がってきていた。それでも神楽は走る足を止めない。
「もうちょっと!」
「ねぇ、神楽ちゃん、太一はどうしたの?」
 途切れ途切れに問うと、神楽は菊へ笑顔を向けてきた。
「向こうで待ってるの」
 神楽の言葉に、一瞬、胸が痛む。
(龍之助のバカ……)
 心の中で悪態ついてみても、ただ切なさが増すばかりだ。


 その頃、太一と裕次も走っていた。……龍之助の手を引いて。
「どこ行くんだよ、おれは今日は花火なんか行かないって言ってるだろう!?」
「ぶつくさ言ってねぇで着いて来いって! いい場所知ってんだ。な、裕次」
「そうそう! だからこうして野郎ばかり3人でわざわざ花火なんて観に行くんですよ」
 裕次と太一は何か含んだように笑うと、さらに走りつづける。
「おまえら言ってる事意味わからないぞ! 好い加減手を離してくれよ、帰る!」
 腕を掴むふたつの手を振り払おうと暴れてみる。解ける代わりに双子の厭な笑顔が返ってきた。
「そうは行かないぜ!」
 龍之助の抵抗も空しく、双子に両腕をがっちりと掴まれてしまう。これでいよいよ逃げられなくなってしまった。
 不意に、夜空に大輪の花が咲いた。
 赤や青や黄色の花は、美しい花弁をちかちかと煌かせながら散らせ、そしてあっという間に消えてしまう。
「花火が始まっちゃったよ!」
 裕次。
 その目はきらきらと輝いている。 
「着いた!」
 太一は弾んだ声で言った。3人の足が止まる。
 あたりを見回すと、そこは道場からは少し離れたところにある、小高い丘の上だった。あちこちに人だかりができているが、土手ほどの大人数ではない。
 向こうからも、こちらへ走ってくる人影がある。
 花火が始まってしまったから、急いでいるのであろうか。
 再び花火が上がる。
 ぱっと、辺りが明るく照らし出される。
 走ってくる人影をよくよく見ると、見覚えのある姿だった。
 龍之助の顔が一瞬、凍り固まる。
「お菊姉さん、着いたよ!」
 神楽の足が止まる。
 危うく菊は神楽に衝突しそうになった。
 そして菊もぴく、と眉を動かすと、そのまま凍りついたように突っ立っている。
「太一、裕次くん! もう来てたのね!」
 肩で息をしながら、神楽。
「僕たちも今来たところだよ。さぁ、行こうか!」
 やはり弾んだ声の裕次は、笑顔で返した。
「じゃ、そゆことだから、後はがんばれよ、龍之助!」
 太一が後ろ手を振ると、3人はあっという間にその場から消え去った。
 花火が次から次に上がり、消えるたびに、距離を置いて向かい合った二人の姿を、照らしたり闇に染めたりした。
「……朝ご飯のインゲンのおひたしどうして残したの」
「え?」
 経を唱えるような淡淡とした声に、龍之助は思わず肩をすくめる。
「あたしがせっかく作ったのに、どうして龍之助は残したのっ!?」
「そ、それは……」
 菊の眉は最高潮に吊り上っていた。
 龍之助は目を泳がせている。
 と、つかつかと菊が近くへ寄って来たと思うと、さっと右手を振り上げた。
「お、お菊……っ!」
 身を縮めると、龍之助は情けない声を出す。けれど、振り上げられた手はほっぺへ落ちてはこなかった。
「……き?」
「へ?」
 そっと見あげると、さっきまで般若のように恐ろしい形相をしていた菊が、目から涙をこぼしていた。
 龍之助はまったく驚いてしまい、さっと立ち上がった。そしておろおろと落ち着かない様子で、頭を掻いたりしていた。
「お、お、お菊?!」
「龍之助はぁ、あたしのこと、好き……?」
 嗚咽をなんとか抑えてやっと発した言葉は、彼の心へ真っ直ぐに突き刺さった。
 龍之助は目を見開いた。
「……好きだよ。お菊が、大好きだよ」
 やっと気付いた。
 話さないと分からない事もあるんだ、ということに。
 逃げてばかりいた自分が、龍之助は恥かしくて、申し訳なくて、悲しくなった。
「ごめんね、お菊。おれ、お菊の気持ちなんて考えてなかった……」
 うつむいて泣いている菊の肩をそっと抱くと、彼女の微かな震えが伝わってきた。
「ごめんね、ごめんね……」
 なぜだか急に泣きたくなった。
 でもここで泣いてしまったら、泣き虫だと言われ、ぶたれるに違いない。そう思い、龍之助はとどまった。
「……じゃぁ、龍之助」
 か細い声。鼻声である。
「なに?」
「今度はちゃんと、インゲン食べてね」
「……え……!?」
 それは別問題だ! と言いたかったが、龍之助はただただ沈黙を守るのみであった。


----------+*+----------+*+----------+*+----------


 『真夏の悪夢』をお送りしました。
 このお話の原型は、中学の頃に書いたまんが(?)で、それをちょっとアレンジして書き起こしてみました。
 だいぶ荒削りなのがバレバレです…;;
 時間に余裕ができたら、ちゃんと整えたいです。
 勝之さんと千代ちゃんのことや、太一と裕次、神楽の事ももっと書いてあげたいしね
 稚拙な文章、失礼いたしました。
 最後までご覧下さり、ありがとうございます☆

〔2005.12.29.THU 17:30 沖鈴花〕

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2005-12-27

胡蝶の夢


胡蝶の夢
 

 蝶の話をする時の彼は、子供のように目をきらきらさせて、蝶の夢を見る。
 どこまでも、どこまでも、たくさんの蝶たちと夢の世界を自由に飛び回る。
 どこまでも、どこまでも、どこまでも……。


----------+*+----------+*+----------+*+----------


 彼の部屋には、数え切れないほどの、色とりどりの蝶が住んでいる。
 赤や青。
 緑や紫。
 黒い蝶に黄色い蝶。
 小さなシジミから大きなオオゴマダラまで。
 狭く薬品臭いガラスケースから飛び出し、彼の心の中を縦横無尽に舞い群れている……。


 幼いころにふたりで彫刻刀でいたずらした跡が残る彼の机の上に、ガラスのふたの木箱がひとつだけ置かれていた。そのガラスケースには蝶の標本が整然と並べられている。
 机の上に置かれたガラスケースを勝手に覗いていると、光の具合でなんとも美しい具合に様々な色が入り混じって見える蝶が、ピンで留められていた。
 蝶の標本のすぐそばには、「リュウキュウアサギマダラ」と、書かれていた。
 なるほど、その蝶は名前のとおり浅葱色の模様を持っていた。
 黒のビロウドにきらきら光る宝石をはめ込んだような、美しい蝶だ。
「あ、ねぇ」
「なに?」
 丁度ジュースとお菓子をお盆に載せて部屋へ戻って来た彼は、やんわりと返事した。
 わたしは今まで眺めていたリュウキュウアサギマダラを指差し尋ねた。
「これってずっと仁志(ひとし)が手に入れたがってた蝶じゃない?」
 すると彼は「どれ?」と、お盆を机の端へ置いて覗き込んだ。
「ああ、リュウキュウアサギね! へへっ、そうなんだ!」
 照れくさそうに、けれどとても嬉しそうに笑った。
 そして「もうずっと昔に言ってたことなのに……咲季(さき)はよく覚えてるね」と言った。
「沖縄にしか生息してない蝶なんだ。キレイだろー? 夜空の星屑のようでさ」
 この蝶は、大学のゼミの関係で沖縄へ行った際、見つけたと言う。
 オフの時間にひとりで外をふらふらしていると、道端で弱りきっている蝶が、再び大空を舞いたいとでも言っているかのように、羽を弱弱しく閉じたり開いたりしていた。そして数分も経たぬ内にその蝶は事切れた。
 その蝶が、このリュウキュウアサギマダラだった、と彼は教えてくれた。
 彼は優しい眸で微笑した。その笑みにはずっとあこがれていた蝶を手に入れた嬉しさと、消えていった小さな命を慈しむような、そんな色が入り混じっていた。
 きれいな笑みだ、とわたしは思った。
 とても純粋な笑み。
 何て優しい人だろう。わたしも自然と笑顔した。
 蝶の話をしている時の彼は、少年に戻る。
 否、彼はいつでも、どんな時でも少年なのだ。
 けれど広い世界では、いつまでも少年ではいられない。
 だから彼は無理をして、大人の仮面を被っている。と、わたしには思えてならない。
 それが大好きな蝶のことになると、彼は自分に戻れる。
 そんな彼が、わたしは大好きなんだ。
 そしてとてもうらやましかった。
「仁志はいつも蝶の夢ばかり見てるんでしょうね。きっと蝶たちも幸せよ」
「そうかな?」
 また彼はやんわりと笑った。
 その笑みは、小さいころから変わらない。
 なんだか自分だけが大人になってしまったみたいで、寂しい気分になった。


----------+*+----------+*+----------+*+----------


 だい好きな蝶に囲まれて、
 だい好きな夢に囲まれて、
 彼は蝶と一緒に夢の世界を自由自在に飛び回っている。


 ねぇ、いつになったら、
 わたしを見つけてくれるの?


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 本館「立風露想

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2005-12-24

異形者 -いぎょうのもの- 第四回


異形者 -いぎょうのもの-

  第四回


「どうだ、うまいだろう?」
「うん、すごくおいしい…! こんなにおいしいスパゲティは初めて食べた」
 鬼は和風きのこスープスパゲティを、フォークでくるくると巻いては満足そうに噛み締めている。その様子を、眼鏡と朱美は安心したように微笑みを浮かべて見守っていた。
 と、不意に鬼は思い出したように顔を上げた。
「そういやぁ、まだ礼を言ってなかった……」
 そう呟くと、鬼は手に持っていたフォークとスプーンを置いた。
「礼? …そんなのはいらないよ」
 男は苦笑した。
「いや…あの時、急にあんたが現れて、何で邪魔するんだと思ったんだ。でも、あんたが助けてくれなかったら、僕は死んでたんだ。自殺しようとしていた僕が言うのもおかしいけれど、内心ほっとしているんだ。…どうもありがとう」
 男は優しい眸で鬼を見つめていたが、どこか悲しそうな顔をしていた。何も聞かされていなかった朱美は、少し驚いた様子で眼鏡と鬼とを交互に眺めた。
「…本音を言えば、すごく怖かったよ」
 男が言った。
「どういう理由だかは知らないが、自分が置かれている今の状況が本当に苦しくて死のうとしている人間を、俺なんかの『いのちは大切に』と言う言葉を押し付けて、その行為を止めていいものだろうか、てね。だけど目の前でひとりのいのちが消えようとしているのを、俺は見てみぬ振りができなかったのさ」
 食卓に静寂が訪れた。
 3人とも食事の手を止めた。
 しかしそれも束の間、朱美が静寂を破った。
「あ、ねぇ、自殺しようとしてたのって、角のことで悩んでたからなの? さっき私が角のことに触れたら、すごく怖がってたみたいだし…」
 鬼は視線を落すと、さみしそうに微笑んだ。
「僕は鬼と人間のハーフなんだ。父ちゃんが鬼の血を引いてて、母ちゃんは人間の血を引いてる。僕には生まれつき角が生えていた。そのおかげで小さい頃からいじめられてきたんだ。それでつい先日、とうとう僕の家に退去命令が下された」
「退去命令?」
「うん。僕の生まれ育ったところは山腹にある小さな村で…ある日畑から帰ってきたら父ちゃんが『角のある息子さんはうちの村では認められません』って村長さんから言われてた」
 ひどいわね…、と朱美が呟いた。
「もう行く場所がなくて、父ちゃんも母ちゃんもとても悩んでた。だから…」
「家出してきた、ということか」
 眼鏡の言葉に、鬼はこくんと首を縦に振った。
「東京にはいろんな人がいるって、母ちゃんから聞いてたから、こんな僕でももしかしたらやっていけるかも、って、思ったのに…逆だった……――――」
「それで、自殺を…」
 朱美はそう言って、知らず知らずの内に自分の首を両手で押さえていた。
 重苦しい空気が食卓へのしかかって来た。
 いつの間にか3人ともスプーンとフォークをおろしていた。
「――――さ、せっかくの夕飯が冷めてしまうよ。もう遅いから、今日はとりあえずたくさん食べて、ゆっくりしなさい」
「そうね、それがいいわ。だってあなたそんな恰好じゃ寒そうだし、つかれたでしょう? あ、ねぇ、コーンポタージュでも作りましょうよ。体が温まるわ」
 言われて、鬼は自分がノンスリーブ一枚だったことを思い出した。
「そういえばおまえ、それしか服持ってないのか? 真冬だぞ」
「も、持ってるよ! ただ、あの時全部置いてきちゃったんだい!」
 ふたりの会話に笑顔しながら朱美は席を立つと、食器棚からマグカップとスプーンを3つ取り出し、即席のコーンポタージュをマグカップに開けた。それからポットのお湯をカップに注いだ。
「はいどうぞ。簡単だけどおいしいわよ」
 鬼に出したあと、眼鏡と自分の席にそれぞれポタージュを出し、席に着いた。
 コーンポタージュの甘く温かい香りと、やわらかな色彩が、鬼の心にしん、と染み渡っていく。
 鬼はポタージュを見つめながらマグカップへそろそろと手を伸ばすと、ひとくち啜った。
 そのポタージュはとても熱かったけれど、鬼の凍えきった心を融かすには丁度良かった。
「…すまねぇ」
 うつむきながら、鬼。
「いいのよ、別に。遠慮しないでたくさん食べて」
「いや、違うんだ。こうやって良くしてくれるのは本当にありがたいよ。でも、僕…こんな僕が、こうやって人に親切にしてもらって、とても信じられないんだ! 今でもこれは夢だと思ってる」
 困惑したようにそう言った鬼に、眼鏡と朱美は目を丸くした。けれどふたりはすぐに笑顔になった。
「ははは! だったら明日目が覚めて、これが夢じゃないということを確認しなくちゃな!」
 今度は鬼が目を丸くする。
 次の瞬間微笑んだ鬼の目に、光るものがあったのは、おそらく夢ではない…。


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 「異形者」第四回をお送りしました。
 最後までお付き合いくださりありがとうございます。
 ではまた、第五回でお会いしましょう!

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2005-11-16

異形者 -いぎょうのもの- 第三回

異形者 -いぎょうのもの-

  第三回


 不夜の都から一歩外へ出ると、鬼が知っているものとは比べ物にならないくらいに弱弱しいが、空には星が輝いていた。
 眼鏡の男の住むアパートメントは、そんな郊外の、そのまた片隅にひっそりとたたずんでいた。
「さあ、上がってくれ」
 眼鏡の奥に微笑を湛えた男は、ぼろぼろになった木のドアを開くと、客人を居間へ通した。居間といっても、台所とリビングが一緒になった狭い部屋である。
 鬼は落ち着かない様子で、部屋の真ん中に突っ立ったまま辺りをきょろきょろと見回している。
 部屋は3LDK。
 どの部屋も見た感じだと狭く古いようだが小奇麗で、建物の古さを感じさせないほど整然としている。
「どうした、ソファにでも座るといいさ。自分の家だと思ってくつろいでくれ」
 そう言って、窓辺の白いソファを指差した。
 男は真っ黒なロングコートを脱ぐと、それをハンガーにかけクローゼットに仕舞った。そしてこれまた黒のハイネックの袖を捲し上げると、台所へ立ち手を洗った。
 鬼は言われた通り、おずおずとソファに腰を下ろした。
 ソファはとても座り心地がよく、また、窓からの眺めもなかなか良かった。鬼は少しだけ、肩の力が抜けていくような気がした。そして男に聞こえないくらいに、小さなため息をついた。
「おまえ、腹減ってないか?」
「へっ?」
 急に尋ねられ、鬼は肩をすくめた。
 すると、ぐぅぅぅぅ…と腹の虫が鳴きだした。
 鬼はばつの悪そうな顔をすると、腹を撫でる。
 どうやら緊張が解けたおかげで腹の虫も元気を取り戻し始めたらしい。なんだか胃の辺りがすうすうとする。
「ははっ! 腹は素直だな!」
 男は愉快そうに笑った。
 鬼は、なんだか恥ずかしくなって、ますます顔を険しくした。
「さて、何が食いたい。ピザか? スパゲティか? それとも味噌汁か? 遠慮はいらないからな。こう見えても料理には自信があるんでね。実は調理師免許もとっているんだ」
 シンクからフライパンを取り出し、コンロに置いた。換気扇のスイッチを入れると、ガスを点けた。一瞬、ガスの匂いが鼻を突く。
「さぁ、何がいい? 何でもいいぞ。夕方に買い物を済ませた所だから、大抵の物はあるし、俺も夕飯はまだだから丁度いい。それに2人分作るより3人分作る方が楽だしな」
「?」
 3人、と聞いて鬼は一瞬考える。
 しかし男は気付いていない。
と、ドアの向こうから足音が近付いてきたかと思うと「ただいまー」と言う声が玄関から響いてきた。鬼は驚いた様子で目を丸くすると、再び肩をすくめた。
「帰ってきたか」
「ご飯まだなの? もうおなかペコペコ。今日のメニューは何?」
 玄関から現れたのは、髪を頭のてっぺんで団子にまとめた女だった。彼女は手に持っていたファイルと鞄を玄関に近い壁際へどさっと置くと、そのまま固まった。
 鬼と目が合う。
 鬼はそれまで以上に目を大きく見開いた。
 彼女も目を丸くした。
「ちょっと、あんた……おでこに角が生えてるじゃない!」
「……っ!」
 彼女は鬼の近くへ行くと、角を珍しそうに眺めた。
 鬼は今にも泣き出しそうな顔をしている。
「朱美、お客さんに失礼じゃないか」
 男は苦笑した。
「なーに泣きそうな顔してんのよ! あんたすごいよ! すごくかっこいいじゃない!」
 朱美、と呼ばれた彼女は鬼の肩をぽん、とたたくと、にっこりと笑った。
「ははは! 朱美らしいな」
 男も、温まったフライパンに油を垂らし、冷蔵庫から取り出した卵を落としながら笑った。
 鬼はわけがわからなかった。
 いつも人間は己の角を見ては罵ることしかしなかったはずだった。なのに、目の前の彼女は、そして彼は、恐れるような素振りすら見せない。
 鬼は目を点にしていた。
「ほら、朱美! 腹が減ったんだろう? だったら手伝え!」
「はいはい。で、なにやればいいの?」
「そうだな……スパゲティを湯がいてくれ」
「あ、今日はスパゲティね! 湯がくくらいなら私にもできるわ。任せといて!」
 そう言って朱美はさっと手を洗うと、ガスコンロの下のシンクを開き、スパゲティの麺を取り出した。
「おまえ、スパゲティは食べれるか?」
 不意に男が鬼へ問う。
 鬼はこくん、と、首を縦に振った。
「よし、スパゲティには自信があるんだ。楽しみに待ってろよ」
 嬉しそうに男は言うと、料理が出来上がるまで台所へ向かったままだった。


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 久々に『異形者』本編お送りしました。


 なんだかなぁ…

 いまいち文章がしっくり来ない。
 まどろっこしいのよね。
 というかプロット状態ですな。
 やっぱスランプか…;
 でも元々からそんなに文章力あるわけじゃないと思うんだけど。
 文章力欲しい。

 何かを書きたいという思いはあるのですが、それが自分の中でくすぶっているだけでなかなか形にならない。焦ればあせるだけもどかしい。


 どうも、お付き合いくださりありがとうございましたー

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2005-11-15

無題「異形者」

異形者 -いぎょうのもの-

 扉を開けるとそこは黒一色だった。
 ぴちゃん、ぴちゃん……、と、どこからか響いてくる。
 そろそろと触手を伸ばしてくる冷気に、鬼は身体を振るわせた。
(確かにあいつの気配を感じたのに……)
 そう思いつつ、鬼は鼻をすすった。
 頭はぼうっとしていて、熱いとさえ感じるが、背筋は冷凍庫を腹の中に抱えているかのようにぞくぞくとする。
 鬼は扉を閉めると、部屋へ戻り、分厚い毛布を2枚被った。
(それともただの気のせいだったのか)
 ひとつ息をつくと、薄暗い布団に横になる。目をつぶった。

 ――おまえは存在しちゃならん
 ――怪物
 ――往ね、往ね
 ――人喰いが…
 ――鬼
 ――この村は呪われている
 ――異形の子

「……!」
 鬼は目を開くと同時に勢いよく身を起こした。
 自分でも分かるほどに息が上がっている。
 冷や汗が全身から噴き出す。
(夢……?)
 頭の芯がぐらぐらする。
 闇がぐにゃりと歪んだ。
 何度か深呼吸すると、鬼はゴム人形のように倒れこんだ。
(ああ、嫌だ……)
 涙まで出てきた。
 じわじわと溢れる涙は、ぬぐってもぬぐってもきりがない。鬼は構うことをやめた。
(嫌だ)
 こんな時に限ってどうしてあいつはいないのだろう。
 黒い黒い、闇を寄せ集めたようなあの猫は。
 額に手を当てると、熱はまた上がっているようだった。


-----*-----*-----*-----


 以前このブログ上で「連載します」と言っておいてそのまま消えてしまった『異形者 -いぎょうのもの-』の覚え書きでした。そのため『異形者』第一夜~第二夜とは繋がっておりません。
 いずれ、今回の覚え書きも含めちゃんと形にはしたいです。かわいそすぎですから;(実はいつもいつも構想は立ててるんです。でも今は他の作品を優先してますのであしからず)


(C)2005 Rinka OKI.

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2005-05-01

桜歌 -さくらうた- 「葬送」構想

 欅(けやき)の木の上で、太一は物思いに耽っていた。
 だから、彼女の声にも気付かなかったのかも知れない。
「たいちっ!」
「!?」
 目を見開く。
 真っ先に目に入ったのは、夏らしい色合いの、蕣(あさがお)の柄の浴衣。
 気付けばすぐ隣に、頬を膨らました神楽(かぐら)がいた。
 年頃のおなごが、なんていう顔をしてるのだろう。けれども太一は、そんな神楽が可愛く思えた。愛しいと、思った。
 彼女の額や首筋に光る滴(しずく)が、ツ、と流れた。
「もう、太一ったらめずらしくボーっとしちゃって……」
「ごめん……て、神楽、おまえどうやってここまで登って来たんだよ。危ないだろ、落ちたらどうするんだ」
 彼らが身を置いている枝は随分と太く頑丈であるから、折れることは無いだろう。しかし、太一は神楽が足を滑らせて木から落ちはしないかと不安になった。
「大丈夫。あたし、そんなに繊(かよわ)くなんか無いもの。それに、こんな所でボーっとしてる太一が悪いのよ。いっくら呼んだって聞こえてやしないんだもの」
 繊いよ。太一はそう言おうとしたけれど、止めた。
 強がりな彼女は、絶対にそのことを認めようとはしないのだから。きっと顔を真っ赤にして怒り出すのだろう――繊くなんか無いもの! と。
「はいはい、済みませんでした。俺が悪かったです」
 再び頬を膨らました神楽だったが、今度はすぐに笑顔になった。ころころとよくかお表情の変わるところは、幼い頃から変わらない。無茶する所も、そうだ。
 太一も神楽につられて笑う。
 ふたりで笑っていると、嫌なことでも、辛いことでも、悲しいことでも何でも乗り越えられるような気持ちになる。そしてとても「幸せだ」と思えた。
 太一にとって神楽は幼馴染であり、そして何よりも大切な女性(ヒト)でもあった。
 幼い頃は、生まれた時からずっと一緒に育ってきたせいもあってか、神楽をいじめるばかりで、逆に泣かされることもしばしばだった。けれど、大切な女性(ヒト)と意識し始めてからは、変わった。……初めはその気持ちが受け入れられなくて、神楽に辛く当たったり、何かとちょっかいばかり出していたけれど。
 ふたりは緑の茂る欅の隙間から見える青空を、静かに眺めた。
 葉がそよそよと擦れあって、風の行方を報せる。
 真っ白な雲が、ゆっくりと右から左に流れていく。
 どこかでヒグラシが鳴いていた。
 神社はとても静かだ。
「……あたし、ここまで登るの、本当は怖かったの。木登りなんて、久しぶりだったもの」
 不意に神楽が口を開く。
 その言葉に、太一は新鮮な驚きを感じた。
「ほら、昔はよくみんなで登ってたじゃない。太一と、裕次くんと、勝之さんと、龍之助さんと……あと、お菊姉さんと」
 ああ、そう言えばそうだったな、と太一は思った。
「神楽は俺や裕次よりも登るのが上手くて、悔しい思いをさせられたよ」
 あら、太一にしては随分と素直な感想ね、と神楽は楽しそうに笑った。太一も笑う。
「けれど、あたしは剣術は出来なかった。おなごだからって、父さまが許してくれなかった……みんな楽しそうなのに、どうしてあたしだけ仲間に入れてもらえないんだろうって、とっても悲しかった。……裕次くんがよく慰めてくれてたなぁ……太一と顔はそっくりなのに、性格はまったく逆なのね」
 神楽が笑うと、太一は、余計なお世話だよ、と言って苦笑した。
「裕次くんは今も昔も優しいものね。勝之さんも、千代姉さまも、お菊姉さんも、龍之助さんも、師匠もみんな良い人で、いつも良くしてくれた。それはずっと変わらない。
 でもね、みんな変わっちゃったの。太一もそうよ」
 太一は神楽の横顔を、眺めていた。
 一瞬、彼女の眸に光るものが映ったのは、気のせいだったのだろうか。
「――ねぇ? どうして同じじゃいけないの? どうしてみんな変わってしまったの?」
 神楽の双眸が、太一を捉える。
 さっきまで笑っていたはずなのに、神楽の顔は悲しみの色で染まっていた。
 ――そんな表情(かお)、しないでくれ……
 太一はそう思う。神楽には、いつでも笑っていて欲しいと思う。幸せでいて欲しい。
「みんな、みんな変わって行っちゃう。太一も、わたしも変わってしまった。――怖いの。なぜだかとても怖いの」
 ――強がりで、頑固で、意地っ張りで、独り善がりで、泣き虫で、わがままで。
 彼女のことを一番解っていると思っていたのに、それはまったくの勘違いだった。今、目の前にいる彼女は、なんて小さな背中をしているのだろう。何者かわからぬ恐怖に打ち震えて、必死で涙を堪えている彼女は、今にも消えてしまいそうだった。本当に消えてしまうのではないかと、にわかに強い不安に駆られた。
 熱い想いが、太一の胸を焦がした。
 神楽の細い腕をぐっと引くと、太一は神楽を強く抱き締めた。
 ぬくもりが、指先から、全身から伝わってくる。
 素馨(ジャスミン)の香りが、胸に巣食っていた不安を和らげた。
 神楽の華奢な体は、微(かす)かに震えていた。きっと涙を堪(こら)えているのだろう。

kaguta6

「……太一?」
「神楽は、俺が必ず守ってみせる。だから、もう泣かないでくれ……そうでないと、俺まで悲しくなる……」
 愛しいと想う。心から。
 まだガキだといわれようと、そんなこと関係ない。
 神楽を幸せにしてやりたい
 いつまでもふたりで笑いあいたい。
 愛してる
 嘘なんかじゃない
「だけど……泣きたい時は、とことん泣けよ。俺が、泣き止むまで傍にいてやるから。神楽はぜーんぶ溜め込んじまうだろ? 俺の前ではありのままの神楽でいて欲しいんだ」
「……ありがとう」
 太一の耳元でようやくか細い声で言ったあと、神楽は子供のように泣きじゃくった。太一は神楽が落ち着くまで、ずっと彼女を抱き締めたまま、優しく見守っていた。気が付いた頃には、もうすっかり陽は落ちていた。


+++++++++++++++++++++++++++++++++++

 ずっと前(2、3ヶ月くらい?)に書いたものです。
 構想途中で終わっているので、ちょっとこちらにupしてみました。
 文章が雑なのは赦して下さい。
 そしてとても説明口調な文章ですね。
 書いててとても恥ずかしくなりました。
 顔が真っ赤です。

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2005-03-07

異形者  第二回

「何やってる」
 声がした。
 鬼は高層ビルの屋上から、ちかちか瞬く灯りを眺めていた。
 人間の営み……悲しい気持ちが心を満たした。
 鬼の額には、見慣れない、異様なものが突き出している。
 それは鋼のように硬く、そしてニードルのように鋭利だ。鬼は己の角が嫌いだった。
 鬼は男のぶっきらぼうな声で、我に戻った。
 振り返った先には、闇しか……いや、闇の中で何かが幽かな光に輝いた。
 眼鏡だった。黒縁の眼鏡。
 眼鏡は全身黒尽くめである。これでは闇に紛れているのも仕方あるまい。
「翔ぶつもりか」
 男は一歩ずつ乾いた靴音を立てながら近付いてくると、3mほどの距離をおいて立ち止まった。
「翔べたらいいなぁ……んだども、堕ちるつもりじゃ」
 鬼はふっと笑った。同時にその瞬間、鬼は男の視界から消えた。
 堕ちていく
 目を閉じる。
 鬼はその感覚を全身で感じていた。
 彼の身に着けている大き目の白のタンクトップとよれよれのジーンズが、甲イカのひれのようにびろびろとたなびいている。
 ビルの下はひっそりとした裏路地になっている。闇が鬼を待ち構えているようだ。
 鬼は闇に吸い込まれていった。
 まるで風を切り裂き、闇を切り裂き、何もかもを切り裂きながらこのまま地球の反対側へ出られるんじゃないか、と鬼は感じていた。
 と、不意に時間が逆回転するような感覚に襲われた。
 鬼の体が止まった。
 空気だけが鬼を置いて堕ちる。
 体の中身だけが皮を残して堕ちて行ってしまったんじゃないかと思った。
 鬼は目を見開いた。
 堕ちていたはずの体は、闇の真ん中に無様な格好で釣り下がっていた。
 鬼は心底驚いた。
「命は粗末にするもんじゃないヨ」
 頭上から声が降ってきた。
 鬼は目だけで夜空を仰いだ。
 その瞬間、鬼は息が詰まるほどに驚いた。
「あんたぁ……人間じゃぁ、ねぇ……?」
 やっとそれだけ言った。
「さぁねぇ。そもそも“ニンゲン”て区別はどこからどこまでなのか」
 黒尽くめの眼鏡男だった。
 眼鏡はビルのタイルが敷き詰められた壁のわずかな透き間に指をかけ、片手で鬼の襟首を掴んでいた。
「ちょっと動かないでいてネ。でないと堕ちるよ」
 自ら進んでビルの屋上から飛び降りていった人物に言うのもおかしな台詞である。眼鏡はにっこりとしてそう鬼に述べると、細身の体のどこからそんな力を出すのか、ぐん、とものすごい力で彼をビルの屋上へ投げ飛ばした。
 鬼は堕ちて来た道のり・およそ20mを、「うわあぁぁぁぁぁ………!!!」と叫びながら逆走して行った。
 眼鏡はと言うと、彼は器用に指と爪先だけでタイル張りの壁を軽々と登って見せた。
 そんな姿を、先に屋上に着いていた鬼は気味の悪いものでも見るような目で眺めていた。そうこうする内に眼鏡が戻ってきた。鬼は彼から視線をそらした。
「さて、まずは俺の家に来てもらおうカ。おまえ、そんな姿じゃ帰るとこないんだろう? ……それに、俺もおまえに聞きたいことが山とある」
 眼鏡はガラスの奥に微笑を浮かべた。


+++++++++++++++++++++++++++++++++++


私。お初お目にかかります… ただ今、こんな恰好でパソに向かってます…。
妹に「北海道にいるみたい」と言われました。
 だって、沖縄寒いんだもん! そうだよ、沖縄だって寒いんだぞー!!!!!!!!!!!


作品について≫
 異形者 -いぎょうのもの- 第一回に引き続き第二回です。
 あまり話が纏まってませんね…申し訳ございません。
 このお話はある程度まとまったら、もう一度推敲し直し、ちゃんとした形で本館(立風露想)にて掲載したいと思っております。

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2005-03-02

34

 今、別れの時
 どんな困難も どんな苦しみも
 共に乗り越え 共に歩んだこの道のり
 今日という日は一瞬であり永遠であり
 その上に友と共にあったことを決して忘れはしない
 今、始まりの時
 わたし達はもうひとつの単位ではない
 どんな困難も どんな苦しみも
 ひとつひとつが広い世界を歩んでいく
 けれどわたし達は 同じ時間の上を共に歩んでいる


 さようなら 友よ

 いつもそばにいることを忘れないで

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ありきたり…です。
 というより、もう頭回ってません。何でこんなに遅くまで起きてるんだ、自分…(汗;)
 疲れたといいつつ、何か文章書きたくて書いたら…このありさま。
 眠い時にはやはり書くべきではありませんね。
 

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2005-02-14

天体観測  第七星/終章

「――――で、これは一体何? UFO? 何か幻覚でも見たんじゃない? ほんと、仲が良いのね、あなたたち」
 あれから4日後、俺たちは約束どおり、レポートを届けに学校へ来ている。先生は3日目のレポートを見て苦笑した。
「私はUFOの観察をしなさいとは言ってないわ。――帰ってよろしい」
 先生にレポートを返されて、俺たちは地学室を後にした。その時、俺は見た。教室を出て、何気なく先生を振り返った瞬間に。
「セイ、どうかしたか?」
 少し先を歩いていたシュンが、地学室の前で立ち止まっている俺へ不思議そうに声をかけてきた。
 間違いない。
 でも、どうして……?
 俺は見た、確かに。
「――いや、なんでもない……」

 ――間宮朝子の頭から、なんとも奇妙な二つの触覚が生えていた。

〔終〕

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2005-02-13

天体観測  第六星

 しばらくしてUFOは夜空の彼方へ真っ直ぐ消えていった。3分もしないほどの、ほんの短い間の出来事だったけれど、俺にはその短い時間が3時間にも、10時間にも思えた。
 UFOが消えたと同時に、俺たちはこんにゃくにでもなってしまったかのように、次々と地面に崩れて、そのまま星空を仰いだ。相変わらず目は点で、口はぽっかり開いたままだ。
「――セイ、だから言っただろ、『異星人はいる』て」
 力ない声で、シュンが言った。
 俺はぼーっとした頭で答えた。
「――ああ、いたな、異星人」
 一体宇宙はどのくらい大きなものなんだろう。
 一体宇宙には、どれだけの生命が命繋いでいるのだろう。
 異星人から俺たちを見たら、やっぱり俺たちも『異星人』になるんだろうか。
 俺たちはやっぱり、この宇宙の片隅に住む『宇宙人』であり、その片隅の地球に住む『地球人』であり、他のたくさんの星の住人から見れば『異星人』なんだ。きっと。
 ――変だ。
 なんだか、変だ。
 区別してしまうから?
 本当は『宇宙人』も『地球人』も『異星人』もないのかもしれない。
 元は一つの星に住む兄弟だったのかもしれない。
 ――いや、俺たちが『地球』という丸い星に住んでいると思っているだけで、本当はもっと大きな巨きな星の上に、一緒に住んでいるのかもしれない。それに気づいていないだけかもしれない。~~~~~~~~~頭が破裂しそう。
 なんだか長い夢を見ていたようだ。
「………帰ろうか、そろそろ」
 千絵が小さな声で言った。
「うん」「うん」
 俺とシュンは同時に答えた。そして三人一緒に起き上がった。
「なんだかあたしにまで、あんたたちのノリがうつっちゃったみたい。三人ともタイミングばっちりよ」
 千絵が笑った。俺もシュンも顔を見合わせて、それから笑った。

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天体観測  第五星

「――なぁ、セイ、千絵。おまえら、『宇宙人』を信じるか?」
 シュンの控えめなそのセリフに、俺は世界へ引き戻された。
「『宇宙人』ていうのは、『宇宙に住む人』だから、俺たちも入るだろ。だったら『宇宙人』を信じる信じない以前に俺たちが『宇宙人』じゃないか」
 俺は冗談でそんなことを言った。
「そんな屁理屈を聞いてるわけじゃねぇよ! ……分かったよ『異星人』を信じるか? 地球外生命体を!」
 聞いてくるシュンの顔は、笑えるほど真面目だった。俺は一瞬、笑いとばしてやろうかと思ったけれど、やめた。
「なんだよ。いきなり」
 聞き返すと、シュンの顔が一瞬曇った。それから何かを言おうとして躊躇ったシュンは、
「セイも千絵も、友達だよな? だったらオレがおかしなこと言っても、オレのこと見捨てないでくれるよな?」
 なんか変だ。
 俺と千絵は、顔を見合わせた。
「わかった。見捨てないよ。友達だもん」
 そう言うと、シュンは硬かった表情を緩めた。が、それも束の間。再び険しい表情になると、こう、切り出した。
「オレ、見ちまったんだ。未確認飛行物体……『ユー・エフ・オー』を……」
 一瞬、場の空気が凍った。
 俺はとるべき反応に困った。千絵も困惑したような顔をしている。
「――星の見すぎ?」
 ようやく千絵が言った。
「違う! あれは絶対ぇUFOだ! この目でしっかと見たんだ! UFOに間違いねぇっ! 異星人はきっといる!」
「そんな……なぁ、シュン、そろそろ帰ろう。ちょっと目が疲れてきたんだよ」
 ムキになるシュンに、俺は納得させようと試みたが、逆効果だった。
「俺は見たんだ! 嘘だと思うならもう一度現れるまで空を眺めていようじゃねぇ、か……………ぁ、れ…………」
「? どうしたんだよ、シュン?」
 ものすごい剣幕でまくし立てていたシュンが、急に口をぽかんと開け、目を点にして、俺の後ろ・南の空を指差した。俺も千絵も、南の空を振り返る。
「…………………!」
 息を呑んだ。
 千絵が手から双眼鏡を落とした。双眼鏡は地面に落ちた……と思ったら、千絵が首からかけていたので最悪の事態は免れた。
 シュンは魚のように口をパクパクしている。
 俺はただ目を丸くして、突っ立っていた。
 俺たちの目線の先には、夜空を縫うように、自在に飛び回る円盤――UFO。その大きさは、ちょうど25メートルプールにすっぽり入るくらいだ。大きな窓がいくつもはめ込まれていて、その窓から、たくさんの、俺たちと同じような格好をした〔ヒト〕たちが俺たちを覗いていた。その〔ヒト〕たちの頭からは、触覚のような、にょきっとしたものが二本生えていた。
 UFOは俺たちの頭上を何度も右へ左へ行ったり来たりし、ついにはほんの上空をぐるぐると旋回し始めた。俺もシュンも千絵も、その様子を呆然と見上げながら、棒になったように、一寸足りとも動けなかった。そもそも動こう、逃げようといった考えは、あまりにも非現実的な出来事のせいで吹っ飛んでしまっていた。だから、突っ立っていることしかしなかった。

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2005-02-12

天体観測  第四星

「『明日から早速観測記録をつけること! レポートは夏休み一ヶ月間毎日書くこと! 一週間ごとにレポートを見せに来ること! 以上、解散!』……だってよ」
 シュンがげんなりして言った。
 頭上では星が瞬いている。
「こんなことってあり?」「まるで夏休みの課題」
 俺は望遠鏡のレンズを覗いてさそり座の一等星アンタレスにピントを合わせながら、言った。シュンと俺は同時に溜息ついた。
 俺たち天体観測同好会の三人は、3日前、先生に言い渡された通り、只今、天体観測中だ。とりあえず夕方5時に学校へ集合し、その後、荷物を一式持って近くの小高い丘へ移動し、夜10時半くらいまで観測を続ける。こんな日々が3日続いている。
「二人とも気持ち悪いくらい気が合ってるわねー。ねぇ、あっちに見えるのが織姫と彦星の夏の大三角形でしょ?」
 南天の天の川の中に見える一等星を3つ、指さしながら千絵が言った。
「で、その上の五角形が蛇使いと蛇。」
 千絵に続き、シュンが半ばやけになって同じく南天を指差して言った。蛇使いの足は、天の川にどっぷり浸かっている。
「そのすぐ下が今ピント調整中のさそり座の心臓、アンタレス……と、できた!」
 やっとピントが合った。
 レンズの向こうにさそりの真っ赤な心臓が見える。
「え、どれどれ、見して!」「お、見せてみろよ!」
 千絵とシュンが同時に飛びついてきた。けれども千絵の方が一歩早かった。シュンは「ちぇ、」としぶしぶ千絵に順番を譲った。
「うわー、きれー! 本当に真っ赤なんだね。きっと表面温度が低いのよ。青白いほど高くて、赤くなるほど低いっていうものね」
「まるで血のよう」
 シュンが言った。いつの間にかシュンは草の上に寝転がって夜空を眺めていた。ちなみにこのスタイルが観測をする上では一番良いスタイルなのだ。けれど、シュンはこのまま眠ってしまいそうなほどに、まぶたがとろんと落ちかけていた。今まで気が付かなかったけれど、時計の針はもう9時40分を回っていた。観測を始めて、すでに四時間が経過していた。
 千絵は5分ほどレンズにしがみついていた。それから満足したらしい千絵はレンズから離れると、寝転がっているシュンに譲った。
「なぁ、次は星団とガス星雲見ようぜー。確かM13球状星団とM17オメガ星雲が見れるぜ」
 レンズを覗きながら、シュンが言った。
 俺もそれに賛成だ。確か、この時間だったら南天のヘルクレス座といて座の中に見れるはずだ。
 千絵は、シュンが覗いている望遠鏡の横で双眼鏡を構えていた。けれどすぐぶれてしまってピントが合わせられないらしく、「ああ、もう!」と何度も地団駄を踏んでいた。
天体観測 俺は丘の上に立ったまま、星空をぐるーっと、ゆっくり眺め回した。
 天頂近くにはヘルクレス。南には蛇使い、さそり、いて座。西には天秤、牛飼い、冠。北には龍、小熊、かろうじでカシオペア座が、そして東には琴座のベガ・白鳥座のデネブ・鷲座のアルタイルからなる夏の大三角形。
 星は今日も静かに、そしてやかましく瞬き、地球は今日も衛星・月と、八つの兄弟と共に太陽の周りを公転する。星は今日も生まれ、そして今日も死ぬ。惑星は延々と歌い続ける。俺が生まれるずっとずっと前から、当たり前のように行われて来た命の合唱は、俺が死んだあとも、きっと当たり前のように行われていくのだろう。この銀河系が果てるまで。
 俺の中を、透き通った、冷たく優しい星の輝きが風のように駆け抜けていった。

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天体観測  第三星

「俊一、なにぽかんとしてんのよ。早く来るのがそんなにいけないわけ? だったらあんた達はどうなのよ」
「いや、別に悪いこたぁねぇが……」
 シュンは言葉に詰まって、俺の顔を助けを求めるように見て来た。その顔には「俺たちと同じバカがいた」と書いてあった。
「そう。だったらいいのよ。――ねぇ、ところであなたなんて名前?」
 どうやら俺の名前を尋ねているらしい。
「あ、俺はシュンと同じ3年2組の早川晴淳。そっちは?」
 どこかで見たことのある顔だけど、名前までは思い出せない。
「あたし? あたしはチエ。日向千絵よ。3年11組・染織科にいるの。よろしくね、早川君」
と言って、日向千絵は笑った。
「そうか、早川君は2組なのね、道理で……。クラスが違うと会う機会ないもんねぇ。俊一は中学が同じだったから親しいけど、高校上がってからはコースも校舎も違って、滅多に会わなくなったものね」
 千絵の言葉に、シュンは「だよなぁ」と相槌を打った。二人はしばらくお互いのクラスの話で盛り上がっていた。なんだか二人ともいい感じだったので、俺は遠くから見ているだけにすることにした。
 そうこうしているうちに、不意に屋上の出入り口が開く音がした。ぎしぎしと、錆びた音だ。
「あら、もう来ていたの? 随分と気が早いのね」
現れたのは、相変わらず全身黒尽くめの間宮朝子先生だった。小さな白い顔には、うっすらと笑みが浮かんでいた。俺たち三人は「おはようございます」と同時に頭を下げた。
「まだ9時17分よ」
 間宮先生は腕時計を見て言った。
「もうちょっとゆっくりできると思っていたのに、全員そろっちゃったじゃない。……ほんと、私もあなたたちも、みんなせっかちなんだから」
「は?」
 間宮先生の言葉に、俺たちは同時に言葉を発した。
 先生がくすくすと、小さく笑った。先生が笑う姿を、初めて見た。
「部員って、もしかして、これだけ?」
 シュンが言った。
 目がまん丸だ。
「そうね、晴淳と俊一があの時私に入部を申し込まなかったら、千絵一人だったわね。――さて、あなたたちは授業で天体望遠鏡の使い方と、星座早見盤の見方、地球の自転その他諸々についてみっちり勉強したわね?」
「……はい」
 なんだか嫌な予感がした。そう思ったのは、俺だけだったろうか?
「そうよね、私が一週間みっちり鍛えてあげたのだから、もう完璧よね。……と、言うわけで」
 先生は、おもしろい悪戯を見つけた子供のような、いじわるな笑顔を浮かべた。

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天体観測  第二星

 夏休みに入った。高校最後の夏休みだ。
 シュンと、朝早くからシュンに無理矢理連れ出された俺は学校の屋上に来て、その真ん中で寝転がって空を仰いでいた。もうすぐ7時になる――てことは、3時間近くここに寝転がっているということか。その間、俺とシュンは「おはよう」以外口をきいていない。真っ暗だった空はいつの間にか気持ちの良いくらいの真っ青に変わり、電線の上ではスズメが鳴いていた。――ところで俺、なんでこんな所にいるんだろう?
「早く来すぎなんじゃないの? 部活はお昼だよ」
 右隣で寝転がっているシュンに話しかけた。
 今日は午後から、天体観測同好会の初顔合わせの日なのだ。
「セイはケチだな!」
「ケチだって?」
 ちょっと俺は頭に来た。自然と眉間に皺が寄った。
「俺たち受験生だぞ。なのに3時間もこんなところで寝転がっているだけなんておかしいよ!」
 俺は起き上がった。
 シュンは「チッチッチ」と舌を鳴らした。
「分かってねぇなぁ……ほれ、見ろよ」
 そう言ってシュンは西の空を指差した。
 俺は顔をしかめたまま、しぶしぶその先を見た。
 白い月が出ていた。貧弱な月だ。
「あれがどうしたの」
「どうもしねぇ。ただの月だ」
「はぁ?」
 もう意味が分からない!
「帰る! 帰って勉強する!」
 俺は立ち上がった。
 シュンはそんな俺をにやにや笑って見ていた。余裕綽綽な笑顔だ。なんだか余計に腹が立った。
 俺がつかつかと屋上の出入り口に向かって行くと、
「生き急いでるねぇ、若者よ……」
と、シュンのおどけたような声が背中にぶつかった。
 俺は振り返った。完っ全に頭に来た!
 シュンがいつの間にか、半身だけ起こしてこっちを向いていた。
「勉強なんて、いつでもできるじゃねぇか。まぁ、今日はせっかくの夏休み初日なんだし、ゆっくりしようじゃねぇの、な!」
 シュンは笑った。
 なんだか、肩の力が抜けるような感覚がした。そして、腹を立てている自分が急に、恥ずかしく思えてきた。
 俺は一瞬ためらったけれど、シュンに向かって、笑った。きっとぎこちない笑顔だったと思う。シュンは「よし!」と言って、笑い返してくれた。
 それからまた屋上のど真ん中で寝転がって、空を見上げた。今度はシュンと、下らない話をしながら青の中に身をあずけた。陽射しがだんだん強くなってきた。
 8時半になって、朝食をまだとっていないことに気付いた俺たちは、ちょっと遅い朝食をとることにした。近くのコンビニに行って、サンドイッチと飲み物を買った。
「そろそろ誰か来るかな? どんな奴らがいるんだろ」
 学校へ戻る道中、シュンが言った。
 俺は笑って答えた。
「さすがにまだ来ないでしょ。だってまだ8時40分だよ。部活は1時からだし」
「そうだよなー、オレたちだけだもんなぁ、こんなに早ぇの。早すぎだよなー」
 シュンも一緒に笑った。――笑ったけれど……
「あら、俊一たちも天文同好会なの?」
 学校の屋上へ戻ると、俺たちは言葉を失った。
 屋上には小柄でセミロングの、キャミソールを着た女子生徒が立っていた。
「早いですね、来るの」
 ようやくそんな言葉が出た。
「チエ……」
 いつもはおしゃべりなシュンは、女子生徒の名前を言ったっきり、俺の隣でぽかんとした表情で突っ立っていた。

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天体観測  第一星

天体観測


『天体観測同好会、会員募集中。
         希望者は理科・間宮朝子まで』


「なあ、セイ。廊下の張り紙見たか?」
 ショートホームルームが終わって、1時間目の授業の準備をしていると、不意に話し掛けられた。
俺は机の引出しに突っ込んで教科書を探っていた手を止め、声のほうへ目をやる。シュンだ。
 シュンは高校に入ってから知り合った、とても気の合う友人だ。ちなみに1年も2年も同じクラスだった。
「張り紙? なんの?」
「『天体観測同好会』の部員募集のポスターだよ」
と、シュンが眸を輝かせて言った。
「天体観測同好会?」
 星や惑星を観察する、あれか?
「そうなんだよ! なぁ、セイ、一緒に同好会入らないか! セイも天文好きだろ? しかも顧問が地学の間宮先生だ!」
 シュンはものすごい勢いでまくし立てた。姿勢が前のめりになっている。あと一歩で俺と衝突しそうになった。
「間宮先生って1時間目の授業じゃん。――そりゃ、天体観測は大好きだけど……うーん……それって、部員どれくらいいるのかな。ちゃんとまじめに活動するかな?」
 遊びで入った奴とか、俺は嫌いだ。せっかく天体観測するために同好会に入っても、活動できなきゃ意味がない。
「そんなの……入ってみないと分からないだろ! 1時間目終ったら即、先生に入れてくれるよう話してみるぞ! よし、決まりなっ!」
「え、ちょっ……」
 勝手に一人で暴走しているシュンを止めようとしたとき、不意に教室のドアが勢いよく開いた。
「おはよう」
 急にシンと静まりかえったクラス中は、淡々とした口調の彼女へ注目していた。
 一瞬の間があって、生徒たちは慌てて自分たちの席についた。シュンも驚いたような顔をしながらいそいそと俺の後ろの席についた。
「今日はここで授業をするわ。ああ、教科書は要らない。プリントを配るから」
 全身黒尽くめの彼女は、俺たちの地学担任・間宮朝子。間宮先生はいつでもどこでも黒一色で、他の先生とは違うオーラを発していた。顔は綺麗だし、白いし、若いしで密かに生徒の人気を得ているのだけれど、この独特のオーラのせいか、あまり間宮先生と親しく話している生徒は見かけない。
「いい、今日からグループで学習してもらうわ。今配ったプリントを見てちょうだい」
 プリントを配り終わった先生は、教壇に上がり、プリントを示した。前から回されてきたプリントに目を通すと、プリントの上に大きな文字で「天体観測をしてみよう」と、ゴシック体で書かれていた。
「夏休みに向けて、これから一週間、みんなには天体望遠鏡の使い方をマスターしてもらうわ。今日は、そのための予備知識と、班作りをするわよ」
 クラスがざわざわとざわめいた。
 シュンが「やったな、セイ! 天体観測だってよ!」と、俺の背中へ言った。
 間宮先生は黒板に向かって、白いチョークで「班作り」と縦方向に書いて、その横に縦棒四本に横棒を一本引いて、簡単な表のようなものを作った。書き終わると間宮先生は、チョークを右手に持ったまま俺たちのほうへ向き直った。
「えーと、このクラスは……ひぃ、ふぅ、みぃ………32人ね。聞いて! 今から班作りをするけど、この学校には天体望遠鏡が五台しかないから6人の班3つと、7人の班を2つ作ってちょうだい。後はあなたたちに任せるわ」
 間宮先生は言い終わると、くるりと黒板を向き、持っていたチョークで、表の上の方にA、B、C、D、Eの文字を書き、その下にかっこで人数を書き込んでいった。そして一通り書き終えると、一段高い教壇から降りて、教室の左隅のパイプ椅子に腰掛けた。
「なあ、セイ、一緒班組もうぜ!」
 そう言ってシュンは、とっとと黒板へ向かうと、A班に、『早川晴淳』、『岡部俊一』と書いて席に戻った。それに倣って、他の生徒も黒板に名前を書き込んでいった。
 不意に、後ろから肩を叩かれた。シュンだ。俺は首だけでシュンに向いた。
〔セイ、今言いに行くぞ! 居ても立ってもいられねぇ!〕
「はぁ? 居ても立っても……て……」
 シュンはせっかちだ。ずっと前から思っていたけれど。
 シュンは俺の意見も聞かずにいきなり席を立つと、俺の腕を引っつかみ、黒板に群がっているクラスメイト達を掻き分け、間宮先生の前へ飛び出した。
「先生っ! オレとコイツを天体観測同好会に入れてください!」
 一瞬、シュンの大声にクラス中がシン……となった。
 シュンは深々と頭を下げていた。
 先生は目を丸くして、シュンを見ていた。
 クラスメイト達は、口をぽかんと開けて、シュンと、シュンに腕をつかまれている俺と、パイプ椅子に足を組んで座っている間宮先生とを交互に見ていた。
 俺は、シュンの毎度毎度の鉄砲玉にあきれ、クラス中の視線を浴びているこの状況になんとも言いがたいあきらめを感じていた。
「――そう。じゃあ、今日の放課後地学室に来なさい。入部志願書を書いてもらうから。活動は夏休みからよ」
 間宮先生は口の端を吊り上げてそう言った。目にはとてもうれしそうな輝きがあった。
「……ぃやったーっ! やったな、セイっ! 先生、ありがとう!!」
 シュンは頭を上げると同時に、俺の腕をつかんだまま、腕を大きく振り上げ、大喜びした。俺の体は大きく揺さぶられた。クラス中が歓声と拍手喝采で渦巻いた。
その後はシュンもクラスも落ち着きを取り戻し(シュンは始終気持ちの悪い笑顔を絶やさなかった)、班決めとプリントの読み合わせで終った。次の時間からは早速、天体望遠鏡を使った実習に入った。と言っても、明るい内に星は見えるはずもなく、太陽があるうちは〔水金地火木土天海冥(すいきんちかもくどってんかいめい)〕それぞれの惑星の特徴や公転周期、今の季節に見える星座や(南天では蛇使いやさそり座、白鳥座が、北天では小熊座やカシオペヤ、ケフェウスなどが見れる)、月の自転、公転周期について勉強した。間宮先生の授業は思った以上におもしろくて、ついつい休み時間までも使って、クラスみんなで星座の問題を出し合ったり、黒板いっぱいに星座早見盤を真似て星座を書いてみたりもした。こうして、夏休みまでの一週間が過ぎて行った。

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2005-02-06

異形者  第一回

異形者 -いぎょうのもの-

 深夜。
 夜を追いやるようにいつまでも明るいそこは、眠らない都市。
 いつまでも消えないネオン
 そびえ立つ不自然でつめたい高層ビルのオフィス街。
 星はスモークの彼方に消え去り、「人間こそすべて」の世の中である。
 ヒトは闇をみなくなった。
 闇を嫌った。
 だから見失った。
 「ヒトでない者」を。

〔続〕

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